月別アーカイブ: 6月 2007



ブレイブ・ストーリー


ゲーム好きと言われる宮部みゆきさんの作品です。
RPGの世界へ入って行くんでしょう。
それにしてはちょっと前置きが長すぎませんか?

ゲームの異世界へ入って、次から次へと現われるモンスターを退治して行くんでしょう。最後はラスボスに勝って、良かった良かった、という話なんでしょう。

などと読む前から勝手にストーリーを想像してしまっていましたが、実際は全然違いました。

『ブレイブ・ストーリー』というその名の通り元気の出るお話しなのです。

この本、昨年映画化されたと言う事、読んだ後で知りました。
同じ昨年に任天堂さんのかの有名なDSのゲームにもなっていると言うではありませんか。

もうこんなところで本の事を語っている場合じゃないですね。
早速にでも、DVDを借りて来るなり、どんなゲームになったのかソフトを購入するなりしなければ・・。

と思いつつもこの本のこのぶ厚さはを思うとせいぜい2時間か2時間半の映像化なんて省略されすぎて到底観れたシロモノじゃないでしょうね。
仰向けになって本を読む、と言う姿勢ですと、本の重みを支えるのは左手の親指と小指の作業。
右手はページをめくる役割り。この『ブレイブ・ストーリー』上下巻ありますが、その一冊のぶ厚さときたら・・・。
左手小指が悲鳴をあげるので、結局仰向けという姿勢を断念せざるを得ないほどでした。
それだけ長い話、という事なのです。

主人公のワタルは現世にては恵まれなかったとは言え、そんな極端な事ではありません。

父親と母親の離婚話で父親が家を出ていった程度の事。
出ていった程度とは言え、そういう事は他人事とばかり思っていた本人には特に小学生だっただけに大ショックな大事件。
母親も相当ショックが大きくガス自殺を図ろうとする丁度その時にこの異世界=幻界(ヴィジョン)へ導かれます。

もっと以前からこの異世界へ行き来していたミツルの一家は悲惨そのもの。
同様に両親のもつれが原因だが、父親は一家全員と心中をしようとして、ミツルだけが生き残った。

母親も妹も父親も居ない彼との差はあまりに大きいのではないでしょうか。
ヴィジョンへでの彼ら旅人の命題は宝玉を5つ集める、という事。
宝玉を5つ集めれば、願い事が適うというもの事になっているが、そのために悪魔と戦う訳でも怪獣と戦うという試練が待っている訳ではない。

ワタルはハイランダーと呼ばれる自治警察の様なメンバの一員となり、犯罪に立ち向かいます。

ワタルは元々理屈っぽい性格でそれを同級生の女の子から指摘されたりしていた。
この異世界へ来て、ミツルに対抗するにはその理屈っぽさを最大限に発揮して戯言使いの様な存在になるのかと思えば、さにあらず。
ヴィジョンに来てからのワタルは怖いものからも逃げようとはせずに無茶だろ、と思わんばかりに単身で危険な場所に乗り込んで行ったりします。

この『ブレイブ・ストーリー』が与えた旅人への命題というのは自分自身が強くなる事なのでしょう。
それも肉体的な強さでも魔力でも無く、精神的に強くなる事。

子供が異世界へ行って旅や試練をして元の場所(現世)へ帰って来るというファンタジーものはいくつもあるでしょう。

結局夢の世界でした、というものやら、帰って来たとたんに不幸な現世の状況が一変して幸福を得られましたとさ、というものやら。

この話は少なくともそういう話ではありません。
結論を書くのはご法度なのでしょうが、この程度の事は書いても差し支えないでしょう。
要は何にも変わる必要が無かったと言う事。

一家全てを失ったミツルの場合は別でしょうが、ワタルにとっては自分自身が強くなれば、周囲の人を許せる自分になれば、それで充分だったのです。

でも勇気と元気がでますよ。この本。
宮部さん、いいじゃない。

さぁ、さっさとDS買って来よっと!

ブレイブ・ストーリー(上・下) 宮部 みゆき (著)



チルドレン


んん?短編か?と思いきや少し成長した同じ登場人物が出てきたり、また世代が戻ったり。
実際には短編なんですが、話は続いている。そんな感じですかね。

『バンク』、『チルドレン』、『レトリーバ』、『チルドレンⅡ』、『バンク』、『イン』の5作。

それぞれにちゃんと、なんだそういう事だったの?という意外性を作っているところはさすが、というべきか。
ミステリものでは無いにしろミステリものっぽさはみたいな最後の意外性はもう伊坂さんのスタイルになっているのかもしれませんね。

登場人物は何人もいますが、この一連の話の中で、最も個性的且つ魅力的なのが陣内という青年。

そして全盲の青年永瀬。この人も魅力的な人です。

その永瀬の彼女が盲導犬のラブラドールレトリーバのベスという犬に嫉妬しているところなども微笑ましい。

『バンク』では主人公たち(陣内、鴨居)はまだ大学生。閉店時間間際でシャッター閉まりかけの銀行にギリギリ滑り込んで、銀行強盗に遭遇してしまう。
そこで同じ人質仲間として全盲の永瀬と出会い、永瀬が犯人達について名推理をする。

これは途中で推理結果は読めてしまいましたが、犯人の存在を気にもとめず、陣内がいきなりビートルズの「ヘイ・ジュード」を歌いだすあたり、陣内の訳のわからない性格を良く表しています。

その歌のおかげで人質になって泣き出したご婦人も泣き止みましたし。

『チルドレン』、『チルドレンⅡ』では主人公達は社会人に。

陣内は何を血迷ったか家庭裁判所の少年事件担当の調査官になっています。
これがまさに嵌っているからおもしろい。

「適当でいいんだよ。適当で。人の人生にそこまで責任持てるかよ」

と口では言いながらも、後輩の調査官にしてみれば一番頼りがいのある調査官。
陣内が担当する事例というよりも後輩の担当事件に口を突っ込む話ばかりなのですが・・。
公衆便所の落書きばかりを集めて書いた本を少年に読ませる事を薦めてみたり、後輩にすれば訳の分からないアドバイスをもらうわけですが何故か全て的を得たグッドアドバイズになってしまっています。

破天荒で言いたい放題で、またその言い方が断定的で・・という陣内以外は皆、まとも・・・と言いながらも案外一番まともなのが陣内なのかもしれません。
まともという表現が妥当で無ければ真っ正直とでも言い替えましょうか。

永瀬は目が見えない。
かつて曽野綾子さんが書いていたのを思い出します。
目が見えなくなってしまう事への恐怖。
いきなり真っ暗闇の世界になってしまう事がどれだけ恐ろしいかを。
でも永瀬は生まれた時から目が見えない。
だから見えないのが当たり前。
また、その当たり前を何でもない当たり前として捉えている陣内という男は清々しい。

この変則連続短編5編の中でのピカ一はなんと言っても『チルドレンⅡ』でしょう。
多くは語りません。

子供からは、かっこ悪いと思われているが、本当はめちゃめちゃかっこいい世の中のお父さん達へ、
丁度明日は父の日ですね。
「ハイこれ子供達からよ」
などと言われて奥さんが買ったベルトなんかを形ばかりの感謝のプレゼントとしてもらって、これっぽっちも感謝などされていない世の中のかっこいいお父さん達、
この一編を読んでみて下さい。
たぶん、あなたの目はウルウルになりますよ。

チルドレン  伊坂 幸太郎 (著)



セブンスタワー


ちょっと変わった世界です。
世界は闇に覆われ、太陽からの直射日光にあたると人々はその暑さで消耗してしまいます。
この世界で明るいのは城と呼ばれる七つの塔のある場所だけ。
そしてその明るさもサンストーンと呼ばれる石も持つ力の明るさ。
七つの塔にはそれぞれ紫の塔、藍の塔、青の塔、緑の塔、黄の塔、オレンジの塔、赤の塔が有り、塔に住む人は選民と呼ばれ、紫、藍、青、緑、黄、オレンジ、赤はその階級を表します。
選民は労働をせず、選民になれなかった人、もしくは選民の地位をすべり落ちた人が地下民と呼ばれ、選民のために労働をします。

また城に住む選民にとっての世界は城の中だけで、その外の世界に人が生きている事を知りません。
暗闇の外の世界には氷民と呼ばれる人が何百もの船に乗って自然と戦いながら生きている。そんな奇妙な世界なのです。

ファンタジーものにはつき物の魔法使いでも魔術師とはちょっと違って、選民は魔法使いでも魔術師でもありませんが、自分の本当の影の代わりにシャドウと呼ばれる魔法の影を持ちます。
シャドウはその主人の危機を救い、また敵への攻撃を行ったりするのです。

選民は生まれながらにしてオレンジ階級ならずっとオレンジ階級という訳では無く、力の強いサンストーンを手に入れたり、魔法の国アイニールへ行って強いシャドウを手に入れたりする事で、上の階級に上がれる。

また、上の階級の選民に礼を失したりすると「光消しブレス」というものを受取り、それがいくつかたまると下の階級へ落とされる。オレンジから赤へ、赤から地下民へと。

主人公のタルは13歳の少年。オレンジ階級なので選民としては下から2番目。
その少年の父親が行方不明になり、母親は病気で伏せっているためにオレンジ階級での存続が難しくなったタルは、力の強いサンストーンを手に入れる為に冒険をおかし、その結果、城の外への冒険の旅へ出る事になってしまいます。

この階級制度、なんかインドのカースト制度を連想してしまいますね。
バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラとその階級に属せなかった不可触民、俗に言うアンタッチャブル。

実際に話を読み進める内に、カースト制度よりも寧ろエリート官僚の世界の方に近い様に思えて来てしまいますよ。
選民=キャリア、シャドウはノンキャリア。地下民が国民。
キャリアはその経歴に傷をつけないに気を使いながら、上の階級(出世)だけしか頭にない。国民の税金で飯を食うのが当たり前だと思っている。
もちろん、作者のガース・ニクス氏にそんな意図は無いでしょう。
これは読む側の勝手気ままな読み方というものです。

地下民の中にもその立場、地位を良しとせず、選民の為の労働を良しとしない「自由民」という人達が表れはじめます。
そのあたりから作者の意図は、ああそのあたりか、などと勝手に先を想像してしまいます。なんせ児童文学ですから。人間は皆平等なんだよ、という啓蒙的要素を含んでいるのかな?などと。

ガース・ニクス氏はオーストラリア人。オーストラリアと言えば、おそらく世界で最も移民の受け入れ度の高い国。元々先住民とイギリス移住者だったものが今では世界から200以上の異なる民族を受け入れているお国柄。
いかなる宗教にも言語にも寛容でいかなる差別も禁止、廃止の政策と言われています。
私の知人のシンガポール人もオーストラリアへ移住しました。

昨年のサッカーワールドカップで日本代表はオーストラリア代表に屈辱的な負け方をしてその後立ち直れなかったけれど、そのオーストラリア代表の中心選手は同じF組のクロアチア出身の選手だった。

なんか話がどんでも無い方向にそれてしまいそうなので、このあたりで終わりにしておきます。

ちなみにこの『セブンスタワー』ですが、『光と影』、『城へ』、『魔法の国』、『キーストーン』、『戦い』、『紫の塔』の計6巻で結構なボリュームですが、そこは児童文学。さほどのボリュームには感じません。

ちょっと毛色の変わったファンタジーものを読んでみたい方にはおすすめです。

セブンスタワー〈1〉光と影  ガースニクス (著) Garth Nix (原著) 西本 かおる (訳)