聖女の遺骨求む


イギリスすなわちグレートブリテンがイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドからなることはサッカーファンは必ず知っているでしょう。
ワールドカップ予選ではイギリスでは無く各々の四カ国が別の国としてエントリーしていますし。
もちろん、サッカーファンならずともさようなことは承知の事実じゃ。と言われそうですが。

各々四カ国と言ったって、日本の九州や四国や北海道みたいなもんじゃないの、ぐらいに思っていた人は、この本を読めば、そんなものじゃないことが良くわかるだろう。

かつてはヨーロッパ全域に暮らしていたケルト民族。
数々の歴史の中で地方へ散っていくが、ここグレートブリテンにてはアングロサクソンに中心から押しやられ、ウェールズ地方へ移り住んだのだと言われる。

この本の時代背景である12世紀ならば、言語も違えば、民族も異なり、風習も違えば、倫理観も異なる。そこへ入って来て徐々に広がりつつあるのがキリスト教。

中世の教会というもの。
かくの如くに、教会が祭る聖者、もしくは聖女をなんとしてもものにして、教会の権威付けを行いたかったのだろうことが想像できる。

宗教伝播より寧ろ権威付けを目的としていたのかもしれない。

主人公の修道士カドフェルの存在が無ければ、当時の人々は神秘的なことについて聖者や聖女の魂の為せる業と言われれば、そうなのか、といとも容易く信用し、事の本質は明らかにならないままだったのだろうし、そのようなことは歴史の中にはいくらでもあったようにも思えて来る。

またこの本、キリスト教徒にとってはうれしくない、どころか排斥すべき本だったのではないだろうか。もちろん『ダ・ヴィンチ・コード』ほどではないにしろ。
そのような本をキリスト教信者が殆どの国で今から約100年近く前に産まれた世代の作者が書けたものである。

この本のジャンルは一応ミステリという範疇になるのだろうか。
となれば余計にエンディングは書けないが、一般の探偵もののように真犯人がわかったから、真相が究明されてから、といってそれを暴きたてたりはしない。

とてもおしゃれな終わり方をするのである。

聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1) (光文社文庫)