バイバイ、ブラックバード伊坂幸太郎著
同時に5人の異性と付き合うなどということは女性ならいとも容易く出来てしまいそうだが、男にはなかなかそんな器用な事は出来そうにないが、この主人公ならわからなくもない。
全く悪意でもスケベ心でもなく、どの女性が本命でその女性がアソビだった、というような無粋な話でもない。
どの女性とも自然にお互いが親しくなりたいと思い、自然に親しくなっていった結果、自然といつの間にか五股になっていたみたいな・・・。
この主人公、とてつもなく優しくていいヤツなのだ。
だからこそ、自然にそうなっていておかしくはない。
何かは最後まで不明だがとんでもない踏んではならない地雷をこの男は踏んでしまったのだろう。
「あのバス」というのに乗せられてどこかとんでもないところへ連れて行かれるハメになる。
「あのバス」はマグロ漁船など比べ物にならないほど恐ろしい乗り物らしい。
乗ったが最後、まともな人間の姿で帰って来たヤツはいないのだとか。
行き先はベネズエラなのかそのベネズエラのギアナ高地にポツンと置かれるだけなか、さっぱりなのだが、とにかく人間を人間として扱ってもらえない場所らしい、ということだけがわかっていること。
その「あのバス」の組織から遣わされたのが、女としては破格に大柄で(ウソかマコトか本人曰く身長180cm、体重180kg なのだという)柄が悪く目つきも悪いまるで怪獣みたいな繭美という名の異世界人。
黙って去るわけには行かないという男の意向が受け入れられて「あのバス」の出発までの日数を使って、五股の女性一人一人にその繭美と共に別れを告げに行く。
そんな一人一人との別れが一話ずつ短編として繋がって行く。
そしてその一話一話がきれいな話としてまとまっていて、別れるはずなのに、実際に別れることをそれぞれの女性も納得しながらも、もっとその男を好きになってしまいそうな、そんな話が並んでいる。
そんな物語である。
この本の帯には「太宰治の未完にして絶筆となった「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った・・」とあるのだが、どうだろう。
膨らませるたって、全然違うだろう。
太宰の「グッド・バイ」の主人公の男はもっとタチの悪いヤツだったはずだ。
しかも10人もの女をスケベ心だけでたらし込んで、愛人として養っていたりする。
グッド・バイを言いに行くというところだけが共通点か。
帯にはもう一行。1話が50人だけのために書かれた「ゆうびん小説」などと書いてある。
これの意味が分からなかったのだが、聞いてみると応募して来た人に抽せんで50人に一話、一話、を送る形式の「ゆうびん小説」なのだそうだ。
これって通しで読まなくて、途中の一話だけ送って来られたらそれこそ、続きやら、この前の話は?と、溜まらないんじゃないのだろうか。
その250人は単行本になった時点で真っ先に買いに走ったんだろうな。
それにしても一冊にしてくれて良かった。
消化不良ほど健康に悪いことはない。