カテゴリー: カ行



爆弾

最初にこの本を手に取った時、正直言って、こんなに面白い本だとは思わなかった。
なんだろう。どんどん引っ込まれて行く。

スズキタゴサクと名乗る男になのか、彼の出す謎かけに挑む特殊班捜査係の刑事とのやり取りなのか。

酒屋の自動販売機を蹴りつけた男が止めに入った店員を殴ったとして逮捕される。

取調室で男は名前を聞かれて「スズキタゴサク」と答える。

取り調べの刑事はふざけるな、と思いつつも大した事件でも無し、まぁどうでもいいと取り調べる側も身が入らない。

流していると、男は自分は霊感がある、などと言い、秋葉原で起こる爆破事件、次に東京ドームで起きる爆破事件を言い当てる。

そこから彼はもう一つ、
「ここから三度、次は一時間以内に爆発します」と予言します。

ここで取調べ官は警視庁から来た特殊班捜査係の刑事に交代。
そこから特殊犯刑事とスズキタゴサクとの心理戦が始まる。

タゴサクは刑事相手にゲームやクイズを持ちかけ、そのやり取りの中の謎かけを解いて行くと、に次の爆破のヒントが隠されたりしている。

のらりくらりと話し、小太りの単なる傷害犯だったはずの冴えない男が実はかなりの頭脳明晰な男だとだんだんとわかってくる。

爆弾魔男と刑事の心理ゲームがとにかく面白い。

謎かけだけが面白かったわけじゃない。
タゴサクの発する言葉は、言い返せば綺麗事にしかならない。
本音のところにグサグサと突き刺さる。

「命は平等って、ほんとうですか?」

「きっとあらゆる場所で、あらゆる人が、いつもいつも、他人の命のランク付けにいそしんでいるんです」

「爆発したって、別によくないですか?」

それにしてもどれだけ長い時間このやり取りをしているんだ。
最初に拘束されてからゆうに24時間を超えたところでタゴサクの方も寝かせろ、とは言わない。ずっとやり取りを楽しんでいる。
操作する側も取調官どころか、爆弾を探しまくる捜査員たちもほぼほぼ寝ていない。

そんな先の時間に正確に爆破するものを事前に仕込んでおいて、予定通りに起爆するなどと言うのは至難の業だろう。

何時にどこで爆発するかわからない状態で単に爆弾を仕込んだという話だけで東京中を走り回らないといけない警察という職業、なんと因果なものだろうか。



熱源


樺太という土地。
そもそも誰の土地だったんだろう。

いろいろと考えさせられる一冊だ。

日本が樺太にからんでくるのは有名な間宮林蔵が樺太を探検してからだろう。
以後、ロシアと日本がそれぞれ領有権を争い、明治に入って樺太・千島交換条約締結によって樺太はロシア。
日本は千島列島の領有権を得る。
日露戦争後の講和条約により、樺太は北半分がロシア、南半分が日本となり、さらに第二次世界大戦にての日本の敗戦により、またまたロシア領となる。

元々住んでいたアイヌの人たちは、明治に入ってのロシア領の時代に大量に北海道に移住し、日本語教育を受けるが、彼らから見ての和人は彼らアイヌの人たちを文明から取り残された土人として見下す者もいる。
日本は学校教育を与えようとするが、それはあくまでも日本人としての教育であって、本来アイヌの人たちが望むものでは無かった。
この本では、ロシア時代にロシアの皇帝の暗殺を狙った革命家の仲間と目されて、サハリン(樺太)に流れて来たリトアニア出身ポーランド系のロシア人が流刑地で生きる希望を失う中、知り合ったアイヌの人たちの文化にほれ込み、友達になり、彼らからは兄貴と呼ばれる。そんな人から見たアイヌ。
北海道の石狩に流れ着いたが、やはり樺太へ帰ることにした日本系のアイヌ民族3人から見た樺太の日本とロシア。
彼はその後、南極大陸への挑戦隊にも加わる。

文明とは何なのか。
日本は文明開化の道を選択し、平和だった江戸時代の文明を捨てた。
アフガンだって部族社会という文化を残すか、首都カブールのような西洋文明に触れた文明を選ぶのか。
タリバンの台頭で部族社会へと舵を切った様に思える。
中国はウィグル自治区をはじめ、各自治区で同化政策を強行に進める。

結局は強いか弱いかなのか。
一見、観光資源としてのみ残った様なアイヌ民族だが、その心意気は残っていると信じたい。
北海道の大抵の地名はアイヌ民族が使っていた言葉から来ているのだし。

熱源 川越 宗一著



疫病2020


今や寝ても覚めてもコロナコロナコロナ。人の話題もコロナ。天気の挨拶の代わりにコロナ。
テレビのニュースをつけてもコロナ。バラエティをつけてコロナの3文字を聞かない日はまず無い。

今これを書いている日のトップニュースは、東京一都3県にての緊急事態宣言の期間延長のニュースだった。
そもそも日本でこの新型コロナ(新型肺炎と言っていたか)についての初めて報道が為された1年3か月前に
その半年後、1年後にまだそのコロナの事をえんえん報じている日を想像し得た人が居ただろうか。

2019年12月に武漢にて原因不明の肺炎患者の症例が相次ぐ。
不審に思った医師の一人が調べたところ、SARSと同じ感染症ウィルスを確認。
すぐに医療関係者達に伝えなければ、とウィルスの情報を共有しようとしたところ、当局からストップをかけられる。
その情報を引き継ぎ、後に英雄となる李文亮氏が発信した途端、今度は公安が来て「デマを流した」という理由で彼を拘束してしまう。
この12月の初動にての情報隠ぺいが無ければ、世界はこんなことになっていなかったのではないか。
もちろんタラレバの話である。仮にここで隠ぺいしなくともやはり蔓延したかもしれないし、日本政府はやはり入国を止めなかったのかもしれない。

中国による初期の情報隠しは致命的すぎるが、その後の日本政府の対応もひどすぎる。
1月に入って武漢が大変な事はわかっているにもかかわらず、厚労省はまだ人から人への感染は確認されていないと、入国制限を行わない。
中国政府が武漢封鎖を行った後になってようやく湖北省からの入国制限を行うも、中国全土の入国制限は行わない。
門田氏によると厚労省は当初入国制限など全く考えもしなかったというほどに危機管理意識が無い。

感染対策の優等生である台湾はというと1月早々に中国からの入国をSTOP。
次から次へと相次いで感染対策を打ち出している。
この違いはなんだ、門田氏の嘆きは続く。

習主席を国賓として招いてしまっていたことが中国の入国制限へのブレーキとなり、夏にオリンピック・パラリンピックを控えていたことが、欧米からの入国制限へのブレーキとなり、初手の感染防止対策の判断をゆがめてしまう。

門田氏は何も政府だけを批判しているのではない。
180度態度を変えた専門家と呼ばれる人たちや、感染対策を真っ先に討論すべき国会で野党が追及し続けたのは未だ「桜を見る会」。これにも呆れている。

初手を誤ると、感染経路は全く追えず、あとは何もかもを停止せざるを得ない最悪の状態に。

わずか1年間のこととはいえ、この本は充分に歴史書だ。

コロナ後も世界からはどんな厄介事が日本に降りかかるかわからない。

迅速な判断と実行が出来る台湾を羨んでばかりはいられない。

2020年から日本は何を学んだのだろう。

疫病2020 門田隆将 著