錦繍


高校生くらいのときに読んで目からうろこが落ちたような気がした本。
久しぶりに読んでみましたが、残念ながら目からうろこは落ちませんでした。

ざっとあらすじ。
物語は手紙のやり取りだけで進んでいきます。
手紙をやり取りする男女は、10年ほど前に夫婦だった二人。
今は全く別の人生を歩んでいます。
偶然旅先のゴンドラで再会した二人は、10年前の様子とはだいぶ違っていました。
二人は決して幸せそうではなかったのです。
再開したことが過去に対する思いを呼び覚まし、最初に女が筆をとります。

高校生のときはただドラマチックな話に惹きつけられたのだと思うのですが、
今読むとぞっとしました。
生きるとか死ぬとか業とか、そういった言葉が散りばめられていて、
きっと深い思想が根底にはあると思うのですが、
物語中の表面上の出来事だけでお腹いっぱいという感じでした。

でもとにかく、過去(恋愛に絞った方が良いかもしれません。)には何も無いんだという感想を持ちました。
過去の想い出は自分ひとりの解釈の下にすくすくと成長して美しくなっていきます。
そして満たされなかった想いや疑問は、膨らんで自分勝手で頑ななものに変化してしまいます。
想い出を一人で大切にしているうちはいいですが、それを想い出の主な登場人物と共有しようと思ってしまうと、大概痛い目に合う気がします。

この物語の男女は過去を振り返り、疑問や憎しみから開放されます。
でも過去に対する思いをすっきりさせてくれたのは、過去の自分や相手ではなくて、
10年別の人生を歩んできた過去とは別の自分や相手です。
どんなに過去に引きずられても過去に生きることはできないのだと感じます。
特に女の人は次の恋をして子供まで生まれていたら、実際そんなに引きずれない生き物ではないでしょうか。

ただ生きてるだけで丸儲けの精神で、
今大切なものをがむしゃらに大切にしてやるんだいと思いました。

錦繍 宮本 輝 著