カテゴリー: 雫井脩介

シズクイシュウスケ



仮面同窓会


怖い話だなぁ。
何が怖いって、かつての同級生が信じられないこの姿が怖い。

高校生時代の熱血体育教師、いや熱血を通り越して独裁者のように振る舞う体育教師。
その体育教師からの仕打ちを卒業して7年にもなって社会人になってもまだトラウマのように引きずる男。
自分の高校時代を振り返ってみてもちょっと想像出来ないが、世の名広いので、そんな学校もあるのかもしれないし、そんな卒業生もいるのかもしれない。
卒業式の日に一番嫌いな教師を池に放り込む儀式がある、などと我々の頃も言われてはいたが、実は誰も本気にはしていなかった。

それが、卒業して7年たっての同窓会の後で、その復讐をしようと四人のかつての同級生達が話合うのだから尋常じゃない。

定年退職してランニングを欠かさないその元体育教師を拉致して怖い思いをさせてやろう、などといっぱしの社会人が四人も揃って計画してしまう。

そして実際に拉致して目隠しをして、手足をガムテープで縛った上で誰もいない工場跡まで運んでから、水をぶっかけたり、電気ショックを与えたり、といたぶった後に放置して帰る。

ところが翌日になって、その元体育教師の死体がだいぶ離れた所にある池から見つかる。
いたぶった現場ならまだしも、かなり離れた場所で。
ガムテープは一時間ももがけば取れたはず。
自力でテープから逃れたにしても、そんなことがあった後で、そこからかなり離れた場所までランニングを続けるか?

世間では暴走族の仕業だろう、とか、赴任していた各校の生徒から恨まれていただろうから、誰かに池に落とされたんだろうとか、うわさは飛び交うが、この四人だけは、ガムテープでぐるぐる巻きにしたという事実を知っている。

この四人がそれぞれ疑心暗鬼になって行く。
真犯人はこの四人の中の誰かでしか有り得ないだろう、というのが四人の共通認識。
主人公の男も他の三人から疑われているが、主人公氏はあいつとあいつが舞い戻ってやったに違いない、と思い。
過去の別の事件のことを聞くと、今度はあの二人じゃない、もう一人が犯人だと思って疑わない。

この話、ミステリー、ミステリーと呼ばれ、そういうジャンルに入っているが、ミステリーよりも寧ろこのあたりの心の揺れ方、というか、四人のそれぞれの思い込みの応酬、これが一番作者が読ませたかったところなんだろうなぁ。
小中高と同級でつるんでいた中でこれだけ疑心暗鬼になれる仲。
殺人事件よりもそっちの方が怖いわ。

おそらく四人以外の誰かが登場するんだろうとは思っていたが・・・。

エンディングの内容はもちろん書かないが、エンディングはちょっといただけないかな。

仮面同窓会 雫井脩介 著



検察側の罪人


当初はそんなこともあるのかなぁ、読んで行くうちに話がどんどん奇想天外な方向に・・・。

東京の某所で老夫婦の殺人事件が起こる。
老人は何人もの人にお金を貸していたので、その借金をしていた連中がまず捜査線上にのぼる。

検事というのは警察の捜査官が犯人容疑者を特定し検挙して自供を取ってようやく起訴状を、と言う時になって初めて登場するものだとばかり思っていたが、検事も捜査会議に参加したり、捜査官と一緒になって捜査方針を決めたり、取り調べを捜査官と交替でしたり、ということもあるらしい。

この物語に登場するのはベテランの敏腕検事と将来有望な新人の検事。

ベテランの検事が学生時代の頃住んでいた寮に、その寮母の娘が居り、まだ中学生だったこともあって妹のように可愛がっていた。
その娘さんこともあろうに今から23年前に暴行殺人で殺されてしまった。

その犯行には、ほぼ間違いないだろうという有力な容疑者が居たにも関わらず、自供が取れないこともあり、担当検事がウンと言わずで結局起訴には至らず、その事件は時効を迎えてしまった。
今は法改正で殺人事件に時効は無くなったがかつては殺人でも15年で時効だった。

その時効を迎えた23年前の有力な容疑者の名前を今回の事件で借金をしていた連中の中に見つけてから、この敏腕検事はおかしくなる。

他に容疑者と思わしき人間が現われても、この容疑者が犯行を犯すには矛盾した事実があったとしても、
容疑者が全く口を割らなかったとしても、無理矢理この容疑者が犯行を犯すべくシナリオを作って行く。
将来有望な新人検事の方は途中から何かおかしいと思いながらも、ひたすら容疑者の自供を得ようとする。

なんだか、途中まではなんだかありそうな・・・と思っていたら、真犯人を見つけながらもその真犯人を逃がす(実際は逃がさずに自分の手にかけてしまうのだが)あたりから、これはいくらなんでも有り得ないだろう、という展開になっていく。

最後の最後には、本当の正義って何なんだ、という終わり方をして考えさせられはするのだが、なんともすっきりしない。

この事件、有罪となれば死刑となる可能性が高い。
そんな事件なら冤罪事件として騒がれるので慎重になるかもしれないが、もっと軽い犯罪なら叩けばほこりが出る様な立場の人間でさえあれば、案外日常的に犯人に仕立てあげていたりしているのかもしれないなぁ、いや少なくともそういうことは可能なんだろうなぁ、とは考えさせられる一冊でした。

検察側の罪人 雫井 脩介 著



犯罪小説家


最近やけに新聞の広告を目にしたものだから、新刊だとばっかり思っていたら、2008年刊行の本でした。
ストーリーとは別にまずそこを驚いてしまいました。

それとこのタイトル「犯罪小説家」。
あれだけバンバン広告打たれて、このタイトルなら期待度は上がってしまうのはもはや必然でしょう。
今後も広告を打つのかどうかは知りませんが、広告を打つということはさらなる読者を獲得しようということなのでしょう。

ですので事前に申し上げておくと、過度の期待を先入観として持ってしまうと少々期待外れになってしまうかもしれない、ということは言えるでしょう。

逆に過度の期待などこれっぽっちも持たずして読んだ方には、なかなか面白いじゃないか、という感想になるのではないでしょうか。

ミステリー系の新人賞をとってから三年目の作家が五作目にして出した本「凍て鶴」。
これが評判が良く、映画化の話が次々と舞い込んで来る。
その評判の良い本のあらすじも本の紹介されていますが、これがそんなに評判になるのかな?という筋立て。

美鶴というヒロインの描き方がよほど魅惑的でうまかったのでしょう。
それぐらいしか考えられない。
その映画化に当たって、超売れっ子の脚本家が名乗りを上げて、その脚本家の書いてくるプロットも紹介されているのですが、これがまた原作とは全く別物じゃないの?
というプロット。
その時代に生きた主人公が30年後からタイムスリップして来るという話になっている。原作者はそのあたりを突っ込むのかと思いきや、最後が主人公とヒロインが心中して終わるところだけを嫌がる。

そしてこの心中、自殺、というキーワードでこのそもそもの本「犯罪小説家」は成り立っている。

「落花の会」という名の自殺系サイトを運営していたメンバと作中のメンバをなんとか結びつけようと脚本家はしようとするわけですが、このあたりからこの本「犯罪小説家」は、犯罪を犯す小説家云々よりも「落花の会」という自殺系サイトメンバの動向、その主催者の生き様、などにの主題が移って行った感があります。

いずれにしろ作者は自殺サイトなるものをかなり研究したり取材したりしたのかもしれませんね。
で、なければこれだけのページ数をその話題だけでを割けないでしょう。

そこはそれなりに読み応えがある、と言っていいでしょう。

ですが、そもそもはこれだけリアルな殺人の描き方を実際に体験したことの無い人間に描けるはずがない、という自ら筆を取る脚本家の強い思い込みがストーリーを展開して行く。

そんなことを言い出したら犯罪にリアルな表現の作者は、実際に犯罪者なのか、となるわけですが、まぁそのあたりを読者に問うてみたいのでしょう。

まぁ、この本については賛否両論あるでしょうね。
冒頭に申し上げた通り、過度に期待して読み始めた人ほどその落差をののしりたくなるでしょう。
ですので、これから読まれる方には、さほど期待せずに読まれることをお勧めします。
ならばおそらく「面白い!」という感想になるでしょう。

犯罪小説家 雫井 脩介  著