君にしか聞こえない乙一著
なんとも独特の世界。
人と話すことが苦手な女子高生。
クラスメイトはいるが、気軽に話しかける相手は一人も居ない。
同じクラスの皆が携帯電話を持っている中、彼女一人だけは持っていない。
携帯を持ったとしても、掛ける相手がいないのだ。
でも、いつかは携帯電話を持ってみたい。携帯電話で誰かと話をしたい。
と思ううちに、頭の中ではいつも携帯電話を持った自分を想像する。
毎日毎日頭の中での想像の携帯電話を持ち歩いていると、腕時計を忘れたことにも気が付かない。
頭の中の携帯の時計を見ているのだ。
そんなことが続くある日、頭の中のイメージのはずの携帯電話が鳴り始める。
人と携帯電話で話をする。
妄想だろうと思ってしまうのだが、現実に存在する男の人だった。
彼もまた、現実界では孤独な人。
そんな彼とほぼ頻繁に電話をするようになるが、はた目から見れば頭の中で話しているので、単に黙っているだけに見えてしまう。
だからテストの最中に問題を読んで協力してもらうことも出来てしまう。
その彼と実際に会おうということになり、悲劇が起きるのだが、その時の彼の優しさ、彼女の優しさ。
そしてもう一人、脳内電話で知り合った年上の女性の温かさ。
荒唐無稽な話のはずなのに、何かじーんと来るものがある。
他に「傷」という話と「華歌」という話の計三篇。
怪我をしている人とすれ違いざまにその人の身体に触れることでその怪我を引き受けてしまう他人の傷を自分に移動させることの出来る少年。おかげでその少年の身体は傷だらけ。というの話と、入院している病院の庭に咲いていた歌をうたう花。
花の中には少女の顔が・・・。という話が二篇。。
周囲の人と接することが極端に苦手なのだが、誰よりも心は美しい、この作者はそんな人を登場させることが多いようだ。