ロスト・トレイン中村 弦著
ちょっと大人の青春小説、みたいな宣伝文句で思わず手にしてしまったが、青春小説とはいかがなものなのだろう。
新潮社にしてはちょっと過大な宣伝文句じゃないだろうか。
一言で表すなら「鉄道マニアが喜ぶ架空廃線ファンタジー」といったところだろうか。
なんといっても鉄道マニアにはたまらない一冊だろう。
主人公はさほどの鉄道マニアではなく、どちらかと言えば廃線歩きマニアというような立ち位置だが、他の登場人物はなかなかに熱烈な鉄道マニアばかり。
「日本のどこかに、まぼろしの廃線があり、その始発駅から終着駅までを辿れば奇跡が起きる」
そんな話をキーワードに物語は進んで行く。
主人公氏は鉄道マニアの老人と知り合いになり、行きつけの店で酒を酌み交わす仲になるが、ある時、その老人はまぼろしの廃線を見つけたかのような言葉を残して失踪してしまう。
その老人を同じ鉄道マニアの女性と一緒に探しに行く話。
今ではすっかり見かけなくなった駅の伝言板。
その伝言板に二人だけがわかる符牒でやり取りし、飲みに行く時の合図に使う。
これは鉄道に関係無くても携帯電話や携帯メールのやり取りよりも押し付けがましくなくて、何やら情緒を感じる。
戦前の鉄道の話やら、ゲージのサイズについてのくだりやらは鉄道ファンなら大喜びしような話ではあるが、何と言っても鉄道マニアのお得意は「乗りかえ上手」なのではないだろうか。
鉄道乗りかえの妙技は松本清張の推理ものを連想ししまうが、考えてみると時刻表片手に鉄道を乗っていた時代には、この時刻の電車に乗って、ここで下車すればこの電車に乗車でき、ここへはこんな時間へ到着出来る、みたいな事は鉄道マニアでなくても一般的な大人なら普通に行っていたことだろう。
インターネットの路線検索では絶対に出てこないような上手な乗りかえ方を時刻表片手の時代には容易に出来ていたわけだ。
そういう意味では鉄道マニアという存在、ある時代のある文化を残すという意味でなかなかに貴重な存在なのかもしれない。