会社に人生を預けるな リスク・リテラシーを磨く


この本、リスクという言葉が一体何回登場するのだろう。
1ページに一回、二回、三回・・・と二十回を超えたところで数えるのを止めた。
サブタイトルにもある単語なので、何度か登場するべき単語なのだろうが、頭の良い人らしいので愚鈍な読者にこうやって繰り返し、繰り返し、同じ単語を使って、読者を洗脳して、いや教育しておられるのだろうか。
なんといっても「世界で最も注目すべき女性50人」の一人なのだと本の筆者紹介にあるほどの人だ。

先日サンデープロジェクトという番組に勝間和代という女性が登場していた。
あぁ、この人だったのか、と読んでいる本の筆者にテレビで遭遇。

その番組では月々17万の給与で保育園の園長をしながら二人の子育てをするシングルマザーがその日々の苦労を語り、この筆者はほんの二三回、話を振られた程度で、「政府はもっと子育てを支援しなければ・・」云々の様なコメントを述べておられたように思う。
この同世代と思われる二人の女性がテレビにツーショットになる絵、テレビ局にも本人にもその意思は全く無いのだろうが、どうしてもいわゆる勝ち組(この言葉はあまり好きではないが)とそうでない組のツーショットに見えてしまうのはなんとも皮肉であった。

そこで筆者が本でさんざん述べておられる「リスク」という言葉を持ち出して、
「結婚する時にリスクを考えたの?」
「子供をつくる時にそのリスクを考えたの?」
「離婚する時にそのリスクを考えたの?」
などと畳み掛ければ、なるほろ、この人は一貫しているんだ、などと変に感心してしまったかもしれないところであったのに。

それは余談。
さて、この本は一体誰に対してうったえたかったのだろう。

終身雇用の制度を奴隷制へなぞらえ、会社を辞めて転々とするとどんどん就職が困難になる現状について片や述べながら、会社に人生を預ける事を否定する。
現在就職している人や、これから就職する人達を対象に発しているのだとしたら、何か矛盾してやしないか。
世の中の経営者連中や大企業の採用担当へ働きかけるのであれば、それはそれで筋が通っているかもしれないが、会社を辞めて就職しづらくなっている人達に向かって就職が困難になるが、会社に終身雇用される考えを捨てよ、といってもそれは言う対象者が違うだろう、という気がしなくもない。

とは申せ、我々のコンピュータ業界ほど、終身雇用の概念の薄い業界も珍しいかもしれない。技術者はそれなりのスキルを身につければ、より条件の良い会社に転職するという事が最も他の業種よりも早くから行われていた業界である。
業界そのものにも転職者というものに対しての違和感が全くない。
このご時世でこそ、敢えて自ら退職して独立しようという人は少ないが、これまでは、転職の末、最後は入社せずにフリーの技術者になるというパターンも少なくなかった。
筆者の言うところのリスクとリターンは表裏一体であるという事を充分意識し、体現して来たのは我々の業界だったのかもしれない。

我々の業界はその動きが早かっただけで、一時、というより少し前までは終身雇用などはもう古いという風潮が当たり前になりつつあったのではなかっただろうか。

その最後のピークが、筆者の批判する小泉政権の時代だったかもしれない。

この本は一体誰に対して・・・の答えが読んでいくうちにわかったような気がする。
今の政治に対してうったえたかったのだろう

「よりよく生きるために」
「リスクを取れる人生はすばらしい」

これらの投げかけは目下の仕事を確保するのに精一杯の人達に対してのものではないのだろう。
政治に対して言いたい事が多々あるお方なのだと思われる。
まもなく総選挙もあることだ。
この筆者は政治家が向いているのではないか、とお見受けした。