教団X中村文則


外部から見れば、教団と、思われている団体が二つ登場する。

一つは実は教団でもなんでもない。

松尾という話好きの爺さんが、月に一回講話を開くのだが、そこに集まった人たちの一部が教祖と勘違いしただけの集まり。

冒頭でいくつか紹介される、この松尾という人の講話が、割りと興味深い。

意識(私)こうしたい、と思う前に脳からの指令が出ている、という類の話、なかなか興味深い。
ある決断をして意思を持ったとしても、それが事前に決められていることをなぞっているだけ、などということがあれば確かに意思など持たなくても良いことになってしまう。

ブッダは物理学の知識無くしてそのことを知っていた?

果たしてそうか。
これって、テニスプレーヤーや卓球の選手など、右へ動こうと意識が働いてから反応したのでは遅すぎる。その前に反射的に動いている、とかそういうことと似ているような気もするが、本当のところはわからない。

この松尾の爺さん、知識が豊富で、宇宙の始まり・ビッグバンから、分子・原子・素粒子と言った物理学の知識を披露してみたりするのだが、その話が結局繋がっていて、人間の細胞なんてどんどん変わっていくんだから、原子レベルで考えたら、人類、いや人類どころか、他の生物もいや生物以外だって皆同じ・・・なーんてところに落ち着いたりする。

この本、一人一人の話が長いので、結構分厚い本になっている。
寝ながら、片手で読んでいたら、手が痛くなってくるほどに。そのまま眠ってしまって、本で顔面強打することしばしばだ。

もう一つの教団は、この松尾の爺さんを詐欺で騙して、講話を聴きに来た連中の中から、高学歴の者だけを引っこ抜いたと言われているが、その実態はというと、高層マンション一棟そのものを教団施設にしてしまって、その中で行われるのが、SEXの嵐。

初入会者のところへは、毎日日替りで美人がバスタオル一枚で現れ、SEXし放題で骨抜きにされる、というような教団で、この教祖がまた「教え」など微塵も無い、変態人間なのにもかかわらず、熱狂的な信者に囲まれる。

根暗で女性にもてたことに無い男が入信したなら、当面は天国だろう。
だが、ただそれだけじゃないのか?
そこから先に何があるのか。皆目わからない。

この教団、マンション一棟を買うだけの初期費用は詐欺やらで得たにしても、その後どうやって維持してられるんだ。
どうやって皆が食えるだけ収入を得ているのか皆目わからないが、宗教なんて案外そうなのかもしれない。

この教団内の過激派がテレビ局を占拠し、携帯電話の着信を起爆剤に日本のあちらこちらに爆弾をしかけた、と脅迫する。
携帯電話の番号をテレビで言ってしまえば、視聴者の誰かが電話するだろう。彼らは自らの手を染めなくても視聴者が爆破してくれる。その脅迫の取引条件が、この教団施設を独立国のような、特区にすること。
このあたりが、この話の最もクライマックスか。

それにしてもこの作者、名指しこそしていないが、よほど安倍政権が嫌いなんだろうな、と思われる表現があちらこちらに散りばめらえてられている。

まぁ、いろいろと突っ込みどころ満載ながら、これだけ重たい(重量の方)本を最後まで読ませるのはやはり作者の筆力のなせる技か。

教団X  中村文則著