ロスト呉 勝浩著
テレビショッピングのコールセンターでアルバイトとして働いていた女性が誘拐される。
アルバイト先に身代金要求の電話がかかって来るが、アルバイト雇用の身代金まで会社が負担するとは思えない。
誘拐された女性、このアルバイトとは別に小さな芸能プロダクションにも在籍する、まだあまり売れていない芸能人の卵でもあった。
そのプロダクションの社長が用意した身代金の1億。
それを100人の刑事にそれぞれ100万ずつ持つ様に指示する。
そしてここからがこの犯人の新しいところで、その100人の刑事全員にSNSのアカウントを登録するよう指示し、一人一人のアカウント宛てに西へ東へと別々の向かう先と到着時間を指示する。SNSのアカウントと言うおよそ刑事と似つかわしくないアンマッチが面白い。
犯人は到着した場所の目印となるようなものの前でその背後の風景を背景に刑事の顔の写真を撮ってSNSにUPする様に指示する。なるほど、これなら確かにその時間にそこへ到着した、という確認は行える。
表に顔が出てはやりづらい捜査もあるだろうに、どうどうとSNSにさらされてしまうのだ。
捜査員を全国あっちこっちにばらまくという手法は、東野圭吾の毒笑小説の中の短編の一つに金持ちの老人たちが狂言の誘拐を行う話があるのだが、その時に捜査員たちを翻弄する時のやり方もこんな感じだった。
ただ、SNSの利用というのが新しい。
誘拐されたと思われた女性は、一週間近く前に既に殺害されていた事が発覚。
その死体のある場所に居合わせたり、アリバイが無かったり、1億をポーンと用意してしまうことも含めて、プロダクションの社長が、筆頭の容疑者となり取り調べを受ける。
証拠不十分で泳がされるプロダクション社長も独自に犯人捜しを始め、警察内の政治力学で捜査からはずされたエリート管理官と現場の部隊長の鬼軍曹刑事の迷コンビも、運び屋をやらされた内の一人で大阪ミナミの生活安全課の刑事も、コールセンターでたまたま犯人の相手に指名された男も、それぞれで捜査本部とは別に真犯人探しの捜査を始める。
この話、大阪を舞台としているので、大阪在住の身としては身近な地名がいくつも出てくるのだが、風景描写が乏しいのでおそらくその場所を思い浮かべる人は少ないだろう。
逆にコールセンターについてのみ、微に入り細に入りかなり詳細で、この作者、昔コールセンターで働いてたんじゃないかと思えるぐらいだ。
真犯人の目的はいったいなんだったのか。なんでこんな面倒なことをしたのか。最後の最後まで、引っ張ってくれる。
冒頭の場面がかなり綿密で計画的だっただけに、こんなの2~3日の思いつきでできるかい!とかいろいろと突っ込みどころは満載ながら、最後まで楽しませてくれる1冊であることは確かだ。