カテゴリー: 宮下奈都

ミヤシタナツ



よろこびの歌


オムニバス形式で短編が繋がっていくお話。

第一話の主人公、玲と言う名の女子は音大付属を受験するが、まさかの失敗をし、他に何も考えていなかったので、新設校に入学することにした。

挫折した人ばかりが集まる学校なんだろう、と心を閉ざし、誰とも話さない。
そんな彼女が合唱コンクールの指揮者に指名されるが、皆は彼女の厳しい指導について来れず、結果は惨憺たるものに。

この学校、行事が大好きで行内合唱コンクールの次はマラソン大会。
走るのが苦手な彼女、最後尾からもうよろよろ状態で最後のトラックを廻っている時に聞こえた皆の歌声の素晴らしさに感動する。それは合唱コンクールでの課題曲だった。

そこから彼女は変わって行く。

音楽教師から合唱コンクールのリベンジを言い渡され、玲の厳しい指導のもとで合唱の練習が再開する。
その中には、第二話の語り手、家がうどん屋の同級生が居たり、
その次の、中学時代はソフトボール部のエースで四番だった同級生が居たり、実はこんな人だったの、という学級委員長が居たり、霊が見える子が居たり・・・。

あまり自信のない人が、周囲との関わりの中の中、だんだんに自信を付けて行く、というのが宮下奈都さんの定番の様に思っていたが、この本もそういうところはあるが、皆で何かを成し遂げて行こうとする、この一連の話が、宮下奈都さんの中でも一番のような気がする。

よろこびの歌 宮下奈都著



太陽のパスタ、豆のスープ


本屋大賞を受賞した人の本って一通り読んでみたくなるので、古い順から読み始めてみたが、宮下奈都さんの傾向がだんだんとわかって来てしまった。

題材はそれぞれだが、なんかいつも主人公は自信喪失しているところから始まって、周囲に自信満々な人が居て、だんだんと自信を取り戻して行く、みたいな、割とそういう流れが多いように感じた。
まぁ、まだそれほどの冊数は読んでいないけれど。

この本での主人公、明日羽(あすわ)は、結婚式の案内まで出すところまで行っていた相手から唐突に婚約解消を申し入れられるところからスタートする。

全てに自信を無くしてしまった彼女に姉のような叔母から、今やりたいことをリストにして書き出してみろ、と言われる。それを「ドリフターズ・リスト」と呼ぶのだそうだ。

・髪を切る
・引っ越し
・鍋
・お神輿
・玉の輿

彼女のリストはその後何度も書き直したり、加筆されたりするのだが、
最初の三つは叔母や友人の協力もあって、早々に実現してしまう。

リストに「きれになる」と書いてはみたものの、「きれになる」とはどういうことなのかがわからない。

ある日、 彼女は偶然に行った青空マーケットの売り場で会社の同僚を偶然見つけてしまう。
あまりプライベートにまで立ち入って話をしたことが無いがお互いに「ちゃん」付けで呼ぶような間柄ではある。
職場では絶対に見られないような、明るいいきいきとした様子でいろんな豆について熱く語り、販売する彼女。

彼女は同僚がどうやって、「豆の販売」という生き甲斐に辿り着いたのか、気になって仕方がない。

それ以降、
彼女のリストには「豆」の一文字が付け加えられる。

さて、彼女はどんな豆を見つけるのだろうか。

太陽のパスタ、豆のスープ 宮下奈都著



スコーレNo.4


宮下奈都さんの初の書下ろし単行本。

本屋大賞を受賞した「羊と鋼の森」とちょっと似ているところもあるかな。

主人公は骨董屋(古道具屋の呼び方の方が合っているか)の長女。

三人姉妹なのだが、幼い頃からずっと妹にコンプレックスを持っている。
妹は自分よりはるかに可愛いのだ、こんな時なら妹はどうするだろうか、とそんな思いのまま大人になっていく女性。

そんな彼女が就職したのは輸入貿易商社。
就職した直後から、系列の靴屋に出向に出されてしまう。

靴の大好きな人たちの中で、一人宙に浮いた存在。

特に敵というわけではないが、彼女が初めて体験する誰も味方が居ない世界。

そんな彼女がフェラガモの靴を履いた時から変貌して行く。
「羊と鋼の森」の調律師がどんどん自信をつけて行くように。

父の店で知らず知らずに養われていた骨董ならぬ物を見る目。

父の店でで知らず知らずに養われていた物を見せる力。

店のディスプレイでその力を発揮し始めてから彼女は変わって行く。

自らは靴を愛していない、と思いつつも誰よりもその良し悪しの目は持っている。

前半はなんでそこまで自分に自信が持てないのかなぁ、というもどかしさばかりが続くが、後半で自分の思うようにやってみるようになってから、話はがぜん面白くなって行く。

いいなぁ。
こういう話。

自信をという宝のお裾分けをもらえそうな気がする一冊だ。

スコーレNo.4 宮下 奈都著