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スティーグラーソン



ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士  


スウェーデンのベストセラー ミレニアムの第三弾。
第一弾は密室探偵者っぽければ第二弾も探偵者っぽかった。ところがどうだ、この第三弾は。
政治の世界に切り込んでいるんじゃないか。
公安という組織、これは公安と訳されているが、原本はどうなのだろう。
CIAやKGBやイスラエルのモサド、韓国のKCIAの様な組織は規模はどうであれ、どこの国にも類似の組織はあるのだろう。
北鮮のように海外へ出る人間全てが諜報員というような国もある。

中にはアメリカのように、じゃんじゃん小説、ドラマ、映画に出て来るような国があるかと思えば、そういう存在があることすら一切タブーになってしまっている国まで、様々。
それでも小説でそれに触れようというのはおそらく大変なことなのではないのだろうか。オロフ・パルメという首相は実在し、実際に暗殺されているし、トールビョルン・フェルデーィンという実在のしかも4~5代前の首相をそのまま登場までさせて、ミカエルは証言を取っている。
これって日本で言えば、小説の中で中曽根首相に外国のスパイを亡命させましたね、って証言を取っている証言を取っているようなことじゃないだろうか。
もっとも日本の総理大臣その4~5代の間になんとまぁ、10数代代わっているのだが・・。
ここ何年かの一年毎の首相交代もお粗末だったが、今度の方は例の5月までに決める、の5月を待つまでもなく消えてしまうんじゃないだろうか。
となると一年も持たなかったことになるか・・・。どんどん軽くなるなぁ。日本の首相は。

余談はさておき、訳者は主人公のミカエルと作者をかさねて見ている。
ということならば、スティーグ・ラーソンはこんな危ない取材をしていたということを暗示しているのだろうか。
危ないことをしているからこそ、本来の妻の立場の人も籍には入れられていないのだという。
スティーグ・ラーソン自身はこの一連のミレニアム三作が世に出る前に亡くなってしまい、この爆発的なヒットを当のご本人は知らない。
籍に入っていなかったがため、共にやってきた妻の立場の人にもその印税やらの遺産を受け継ぐ立場にないのだという。
またまた、訳者によると実は第四作目も執筆していたのだという。

どう考えたって、この三作で完結してしまっているのだろうとは思うのだが・・・。
大金持ちになった後のリスベット・サランベルにはもはや興味は湧かないし。

それでも第四作目があるとすればやはり気になる。
絶対に買って読むんだろうな。

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士  スティーグ・ラーソン 著 ヘレンハルメ 美穂 翻訳 岩澤 雅利 翻訳



ミレニアム2 火と戯れる女


スウェーデンのベストセラー ミレニアムの第二弾。
第一弾も第二弾も虐げられ、迫害される女性達に対する社会的な偏見、特に偏見思考の強い男を糾弾しようとする方向は同じであるが、第一弾はジャーナリストとしての有り方に比重が置かれていたが、第二弾はまさに探偵者である。

第一弾でヒーローとなったリスベット・サランデルに連続殺人犯の容疑がかけられ、彼女が何より秘密にしていた自身のプライバシーが連日、マスコミに書きたてられる。

その間なかなか姿を表さないリスベット。

でもやはりリスベットはヒーローそのものである。
第一弾でも明らかになったその明晰な頭脳。
リサーチャーとしての優秀さはこの第二弾でも如何なく発揮される。
天才数学者達が年十年という歳月をかけてその証明に取り組んだという「フェルマーの最終定理」をわずかな期間で解明してしまうあたりは、もはや頭脳明晰などという範疇をはるかに超越してしまっている。

コンピュータのハッキングなどという許しがたい行為であったとしてもリスベットが行うなら読者は許してしまえる。
そんな存在である。
彼女にかかったらネットワークにさえ繋がっているのであればどれだけファイヤーフォールをかましたところで必ず侵入されてしまうのではないだろうか。

少々違和感を感じたのは冒頭のグレナダでの滞在期間の結構長い記述。
後半のストーリー展開にも特に関係してくるわけではない。
作者がたまたまグレナダを旅行したので、ストーリーに関係しない冒頭の出だしに思いつきで入れたとしか思えない。

それにしても男女間格差が最も少ない、として日本のフェミニスト達がよく紹介する北欧の国で「この売女」と女性が罵られるシーンのなんと多いことか。
日本において、必ずしも全てにおいて男女は平等だとは言わないが、女性に対する敬意という様なものはもっとあるのではないだろうか。

作者はこの本が世に出る直前に亡くなってしまうのだが、自身でこの一連の本は自らの取材活動の中での体験を取り入れている、と生前に語っていたというのだから、ネオナチの人間が居たり、人身売買が行われていたり、というのも満更、創作というわけではないのだろう。
他の国に先駆けての男女雇用均等法なども逆を言えばそれだけ、放置すれば劣悪な状況だったということの裏返しなのかもしれない。

この上下巻、文句無しに面白いが、完璧に完結しきっていない。
やはり第三弾も読め、ということなのだろう。

ミレニアム2 上 火と戯れる女  スティーグ・ラーソン 著 ヘレンハルメ美穂 (翻訳), 山田美明 (翻訳)



ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女


第一部の刊行から3年あまりで計290万部を売り上げたという。
人口900万人のスウェーデンで290万部というのは驚異的な数字である。
スウェーデンでは読んでいない、というと驚かれるというほどの作品である。(以上 訳者 ヘレンハルメ美穂氏のあとがきより)

読んでみれば大ヒットというのも確かにうなずける。

物語は、大物実業家をの暴露記事を発表したジャーナリストが名誉毀損で有罪になるところから始まる。

その暴露記事を書いたのが雑誌『ミレニアム』の発行責任者の一人であるミカエル。
そんなミカエルに舞い込んだのが歴史のあるコングロマリット企業の元会長からの依頼仕事。約40年前にその一族が保有する島から忽然と姿を消した当時16歳の少女の事件調査。

もはやこれまで37年間にありとあらゆる可能性を調査しつくした事件で、解決するとは到底思えないが、まだ何か見落としがあるのではないか、出来る限りのことをして欲しい、と頼まれる。

それ以上については、ここで書くのは控えるが、
章毎に記述されるこの各一行。

・スウェーデンでは女性は18%が男に脅迫された経験を持つ。

・スウェーデンでは女性の46%が男性に暴力をふるわれた経験を持つ。

・スウェーデンでは女性の13%が性的パートナー以外の人物から深刻な性的暴行を受けた経験を有する。

・スウェーデンでは性的暴行を受けた女性の内92%が警察に被害を出していない。

という類の記述。

日本の小説なら章毎の裏表紙の一行なんて見過ごしてしまうかもしれないが、この記述の類はスウェーデンだけになかなか見過ごせない。
その数字にどこまでの信憑性があるのかはわからないが、この作家もジャーナリスト出身であるだけにまんざら根拠のない数字ではないのだろう。

どこぞのフェミニストは、日本の男達はスウェーデンを見習え、見習えと事ある毎に、言うが、その数字を見てもまだ言うだろうか。

この小説。ジャーナリスト以外に、サブタイトルのドラゴン・タトゥーの女ことリスベットという天才リサーチャーがもう一人の主人公として登場する。

そこで出てくるのが後見人という制度。
社会的非適合者としてカテゴライズされた人間は社会生活を送るにあたって、後見人を必要とする。
後見人は被後見人の預金を管理することも出来、被後見人はいくら仕事をしても自分が稼いだお金でさえ自由に使うことが出来ない。
それどころか様々な行為(規定によると法律的行為と呼ばれるらしい)を後見人と呼ばれる人が代理で行えるのだという。
スウェーデンではその被後見人の人口は4000人に達するのだとも記述されている。
約2000人に一人の割り合いでそのような境遇の人が存在するのは低いパーセンテージと言えるのだろうか。

これもストーリーの展開にふれてしまうのでこれ以上は書くことは控えよう。

もう一つ見逃せないのが、スウェーデンとナチズムの関わりだろう。
主人公達は彼らを頭のおかしい連中と片付けるが、コングロマリット企業の一族内に、戦時中ナチズムに傾倒した人が何人か居て、内一人は91歳でもまだその思想から離れられるどころかその思想そのものの人が存命したりしている。
「この売女」と女性を罵る背景にナチズムが存在したり、主人公達が敢えて頭のおかしい連中と位置づけることは逆に言えば、未だまだそういう思想層の人々が一部には存在し続けているのかもしれない。

この物語の根幹を為す柱の一つは、経済ジャーナリストとしてのはもちろん、ジャーナリストとしての有るべき姿、姿勢を見せるのが主人公のミカエルの生き様。

そしてもう一つは、社会的弱者として虐げられ、暴力を振るわれ、時には残虐な振舞いをされ、泣き寝入りするしかない女性の存在と彼らを代表するかの如くの復讐劇を演じて見せるのもう一人の主人公であるリスベットの生き様。

そんな大きな大きな二本柱によって成り立っていると思う。

ミステリーとしても経済小説としても社会派小説としても第一級の作品だろう。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女  スティーグ・ラーソン 著  ヘレンハルメ美穂 翻訳 岩澤雅利 翻訳