羊と鋼の森宮下奈都著
2016年の本屋大賞受賞作。
なんかとっても美しい本だった。
過去、こういう美しいだけの本が本屋大賞になったことってあったっけ。
「村上海賊の娘」のようなわくわくするような躍動感があるわけじゃない。
「海賊とよばれた男」のような感動と勇気を読者に与えるわけじゃない。
ただ、美しい。
人間、天職に巡り合うほど素晴らしいことはない。
主人公はなんと17歳にして天職と巡り合ってしまう。
たまたま学校の体育館までの道案内をした相手がピアノの調律師だった。
後にわかることだが、その調律師は著名なピアニストから調律の指名を受ける様な人だった。
最初に出会ったその人の調律がどれだけ彼の心を打ったのか、ピアノを弾いたことがあるわけでも、音楽の素養があるわけでもない少年が、その人に次に会った瞬間には「弟子にして欲しい」とまで言い出してしまっている。
調律の専門学校を出た後にその師と憧れた人の店に入社するが、人の何倍も努力してもなかなか調律は上達しない。
いや、上達していない、と思い込んでいるだけなのかもしれない。
この話の中では音というものがいろいろな比喩で表現される。
調律という作業もまたいろいろな比喩で表現される。
正直、その比喩が本当に妥当なのかどうかはわからないが、その比喩の言わんとするところに共感してしまうし、そこにも美しさを感じてしまう。
調律という作業がこれほどに奥の深いものだとは思わなかった。