そして、バトンは渡された
17歳ににして四回も苗字が変わる、森宮優子という女子高生。
よほど、複雑な家庭なんだろう、よほど辛い思いをして来たんだろう、誰しもそう思うだろう。
ところが、彼女に不幸な影は微塵も無い。
人が不幸だと思ってくれているので申し訳ない、いじめてくれる継母と結婚して、と同居人である3人目の父親に冗談を言い、冗談で返される。
実の母親は幼い頃に事故死。父親の再婚相手とはすぐに仲が良くなり、母親というよりは友達、いや面倒見のいい姉御みたいな存在か。
父親がブラジルに赴任するからついて来ないか、と言われて、姉御は拒否。
で迷った彼女も姉御についていくことに。
この姉御が優子に注ぐ愛情がハンパなかった。
一見、自由奔放、好き勝手に生きている様に見えながらも、実は優子のためなら自分の人生なんてどうだっていいとさえ、思っていたのではないか、と思えるほどに。
その姉御が優子を託したのが、森宮さんというまだ女子高生の父親にしては若すぎるほどの年齢の男性。
で、彼の優子に対する父としての優しさもまたとんでもないレベル。
優子は父親を3人、母親を2人持った事になるになるのだが、その誰からも愛されていた。それは彼女の根っからの明るさ、人から好かれるキャラクタにによるところもあったのかもしれない。
この本、最後数ページだけでも充分に感動させてくれるが、そこまで読者を引っ張って行かせてくれたのは、3人目の父森宮氏と優子の絶妙な掛け合い。
それに森宮氏の全くトンチンカンな方向でとことん頑張ってしまえるキャラクタ。
始業式と言えばかつ丼だろ、と早起きまでして頑張って作ってくれる。なんでかつ丼なんだ!
元気がない時はギョウザだろ、とえんえんとギョウザが毎日食卓に並んで辟易とするが、そんなトンチンカンも全部優子のためを思ってやっている事なのだ。
だから、優子もそれに応えてしまう。
そんな優しさどうしのぶつかり合いが最後まで読者を放さない要因か。