セブンスタワーガース・ニクス著
ちょっと変わった世界です。
世界は闇に覆われ、太陽からの直射日光にあたると人々はその暑さで消耗してしまいます。
この世界で明るいのは城と呼ばれる七つの塔のある場所だけ。
そしてその明るさもサンストーンと呼ばれる石も持つ力の明るさ。
七つの塔にはそれぞれ紫の塔、藍の塔、青の塔、緑の塔、黄の塔、オレンジの塔、赤の塔が有り、塔に住む人は選民と呼ばれ、紫、藍、青、緑、黄、オレンジ、赤はその階級を表します。
選民は労働をせず、選民になれなかった人、もしくは選民の地位をすべり落ちた人が地下民と呼ばれ、選民のために労働をします。
また城に住む選民にとっての世界は城の中だけで、その外の世界に人が生きている事を知りません。
暗闇の外の世界には氷民と呼ばれる人が何百もの船に乗って自然と戦いながら生きている。そんな奇妙な世界なのです。
ファンタジーものにはつき物の魔法使いでも魔術師とはちょっと違って、選民は魔法使いでも魔術師でもありませんが、自分の本当の影の代わりにシャドウと呼ばれる魔法の影を持ちます。
シャドウはその主人の危機を救い、また敵への攻撃を行ったりするのです。
選民は生まれながらにしてオレンジ階級ならずっとオレンジ階級という訳では無く、力の強いサンストーンを手に入れたり、魔法の国アイニールへ行って強いシャドウを手に入れたりする事で、上の階級に上がれる。
また、上の階級の選民に礼を失したりすると「光消しブレス」というものを受取り、それがいくつかたまると下の階級へ落とされる。オレンジから赤へ、赤から地下民へと。
主人公のタルは13歳の少年。オレンジ階級なので選民としては下から2番目。
その少年の父親が行方不明になり、母親は病気で伏せっているためにオレンジ階級での存続が難しくなったタルは、力の強いサンストーンを手に入れる為に冒険をおかし、その結果、城の外への冒険の旅へ出る事になってしまいます。
この階級制度、なんかインドのカースト制度を連想してしまいますね。
バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラとその階級に属せなかった不可触民、俗に言うアンタッチャブル。
実際に話を読み進める内に、カースト制度よりも寧ろエリート官僚の世界の方に近い様に思えて来てしまいますよ。
選民=キャリア、シャドウはノンキャリア。地下民が国民。
キャリアはその経歴に傷をつけないに気を使いながら、上の階級(出世)だけしか頭にない。国民の税金で飯を食うのが当たり前だと思っている。
もちろん、作者のガース・ニクス氏にそんな意図は無いでしょう。
これは読む側の勝手気ままな読み方というものです。
地下民の中にもその立場、地位を良しとせず、選民の為の労働を良しとしない「自由民」という人達が表れはじめます。
そのあたりから作者の意図は、ああそのあたりか、などと勝手に先を想像してしまいます。なんせ児童文学ですから。人間は皆平等なんだよ、という啓蒙的要素を含んでいるのかな?などと。
ガース・ニクス氏はオーストラリア人。オーストラリアと言えば、おそらく世界で最も移民の受け入れ度の高い国。元々先住民とイギリス移住者だったものが今では世界から200以上の異なる民族を受け入れているお国柄。
いかなる宗教にも言語にも寛容でいかなる差別も禁止、廃止の政策と言われています。
私の知人のシンガポール人もオーストラリアへ移住しました。
昨年のサッカーワールドカップで日本代表はオーストラリア代表に屈辱的な負け方をしてその後立ち直れなかったけれど、そのオーストラリア代表の中心選手は同じF組のクロアチア出身の選手だった。
なんか話がどんでも無い方向にそれてしまいそうなので、このあたりで終わりにしておきます。
ちなみにこの『セブンスタワー』ですが、『光と影』、『城へ』、『魔法の国』、『キーストーン』、『戦い』、『紫の塔』の計6巻で結構なボリュームですが、そこは児童文学。さほどのボリュームには感じません。
ちょっと毛色の変わったファンタジーものを読んでみたい方にはおすすめです。