正欲朝井リョウ著
LGBTQ+に対して世の中は寛容になったんだろう。
自分の身近にはいないが、仮にいたとしてもさほど驚かないし、テレビに登場する人が、そうだ、とカミングアウトしたところで、たぶん、あーそう、で終わる気がする。
確かにまだまだマイノリティかもしれないが、もうすでに世の中には認知されたマイノリティなのだ。
世界のLGBTの割合は平均で約8%なのだという。
まだまだ少ないだろうと思われている日本ですら4%。
政党支持率でいうところの日本の第三政党、維新の会よりもだいぶ多い。
もはやマイノリティですらない。
なんか肩身の狭そうな生き方をしている人をして一律、LGBTの枠で括るのはやめてくれ!そんな主人公たちの悲鳴が聞こえてきそうな話なのだ。
ショッピングモールの寝具店で働くOL、桐生夏月。
金沢八景大学に通う女子大生神戸八重子。
不登校になってしまった小学生の息子の対処に悩む検事という、お堅い職業の方。
この無関係の3者が交互に登場する。
桐生夏月という女性、仕事はキッチリと出来るが、なんか生きづらそうな生き方をしている。
女子大生神戸八重子、男性恐怖法の様なところがあるが、学園祭実行委員にてミス・ミスターコンテストの廃止、代わりに人気ドラマ「おっさんずらぶ」みたいなドラマの脚本家だか演出家だかをアサインできたことで生き生きとしてくる。
そして不登校の小学生を持つ父。
この3人になんらかの共通性があって、それが絡み合っていくんだろう、と読み手は想像するのだが、その読み手の想像をはるかに超えていた。
この3人に共通点などなかった。
それぞれ、諦める側の人、やさしく寄り添おうとする勘違いの人、気持ち悪いと思う側の立場の人。
水しぶきを見る事で興奮する、水しぶきに欲求するなどと聞いて、俄かに信じられる人がいるだろうか。
正直に言ったところで、気持ち悪い、としか思われない。
世の中には本当の意味でのマイノリティの人たちが存在するのだ。
そんな彼らはどうせ言っても誰もわかってもらえないよな、という諦観のようなものがある。
何も言えない彼らに対して、親切心で近づく人は女性を愛せない男、男性を愛せない女性の人、などという範囲で括ろうとする。
別に恥ずかしい事じゃないんだよ。
正直に話してみて。
などと。
正直に話してわかってもらえないから話さないんだろうが・・。
そういう人たちの生きづらさを描いた本、世の中の盲点をついた本だと思う。