魔王伊坂幸太郎著
読むのが前後してしまったが、この本があの「モダンタイムズ」の前段だったんだ。
「モダンタイムズ」の中で日本政府を動かすほどの財力を持つ安藤商会なる謎の存在。
その元締めの安藤潤也という謎の人物。
その若かりし頃がこの魔王で描かれている。
じゃんけんでは必ず勝つ。
10分の1は1。つまり10分の1の確率の勝負なら必ず勝つ。
新聞紙を25回折りたたむとその分厚さはどのぐらいか。
富士山の高さに匹敵するのだそうだ。
その話は魔王にもモダンタイムズにも書かれていた。
だから、競馬の単勝レースでこつこつと勝って行けば、しまいには日本を動かすほどの財力になるというわけか。
この魔王、前段は潤也の兄が主人公。
自分が腹話術という変わった超能力の持ち主であることにある時気が付く。
念じることで人に自分の念じた言葉をしゃべらせてしまう。
こういう人が外交官ならこの能力を活かせば、かなりのことが出来てしまうな。
時代はまさに政治に強いリーダーシップを求めている。
この魔王が書かれた時もそうだったろうし、今の世もそうだろう。
決められない政治が続けば、ともすればファシズムに走るかもしれないほどの強いリーダーの存在に期待は集まる。
この兄は、そんな集団に走る世に脅威を感じ、なんとかしてその強いリーダーシップで台頭して来た政治家に腹話術をしかけようとする。
同じファシズムを扱うにしても村上龍の「愛と幻想のファシズム」とは対極だ。
いや、伊坂氏には対極と言うような政治的な意図はないだろう。
「流されるな」「自分で考えろ」
寧ろそれだけかもしれない。
「魔王」の中では弟は競馬で蓄えて行く金でこの国を救いたいと考え、「モダンタイムズ」の中ではそうして出来あがったシステムが一人歩きをしてしまう。
どちらが先でもまったく問題なかった。両方読まれることをお勧めしたい。