一路浅田次郎著
世は幕末である。
もはや参勤交代でもあるまい、という時代なのだが、代々、お家の参勤交代の差配をする御供頭という家柄に生まれた主人公の一路。
参勤交代のお役目さながらに一路と名付けられたというが、まだ19歳にして一度もお供をしていない。
そこへ来て父の急死。
参勤交代の御供頭を命じられるが、何をして良いのやらさっぱりわからない。
ようやく見つけたのが、200数十年前の行軍録。
参勤交代の行列とはそもそもは、戦場へ駆け付ける行軍なのだ、とばかりに古式に則った行軍を差配する。
江戸時代も200数十年続けば、たるむところはたるみ切っている。
そこへ来て「ここは戦場ぞ!」とばかりに中山道の難所を駆け抜けて行く。
その行軍におまけがつく。
お殿様の命を狙うお家騒動の悪役達が同行しているのだ。
古式にのっとった行軍も面白いし、お殿様という立場も面白く描かれている。
決して家臣を誉めてもいけないしけなしてもいけない。
「良きにはからえ」と「大儀である」だけじゃ、名君なのかバカ殿なのか、わからない。
ここのお殿様は蒔坂家という別格の旗本で大名並みのお家柄らしい。
同じような家格を例にあげると赤穂浪士に打ち取られた吉良上野介の家柄などがぴったりとくるのだそうだ。
バカ殿かどうかは読む進むうちにわかってくる。
上下巻と結構な長編ではあるが、読みはじめればあっと言う間に読める本だろう。
ただ、惜しむらくは浅田次郎作品にしては珍しく、悪役が完璧に悪役そのものなのだ。
浅田次郎という人の書くものはたいてい、悪役を演じさせながらも最後にはその人の止むにやまれぬ事情などが明らかになって、ぐぐっと涙を誘ったりすることが多いのだが、この作品に限っては、悪役は最初から最後まで悪役のまま。
まぁ、浅田さんにもそういう気分の時もあるのでしょう。