聖女の救済東野圭吾


整形手術をしてまでも逃げおおうせようという人間は確かに存在した。
だが、トリックというものを駆使してまでして人を殺めようなどと思う人間が果たしているのだろうか。
それだけの頭脳と労力を使うぐらいなら、その頭脳は別の道に活かすべきと頭脳そのものが指令を出すのではないか。
などと思ってしまってはなかなかこういうトリックを駆使したミステリーものの読者としては失格なのだろう。
有り得ないだろう、そんなこと、と内心思いつつも、よくぞそこまで練りあげてくれた、と作者の労苦と知恵を賛辞するのが正しい読者なのかもしれない。

この「聖女の救済」という本、テレビでもおなじみになってしまったガリレオ先生の謎解きのシリーズの一刊である。

ガリレオ先生こと湯川先生曰く「この犯罪は虚数解」なのだそうだ。
虚数解、理論的には考えられるが現実的には有り得ない。

「有り得ない」と先に作者から宣言されてしまっているようなものだ。
先に宣言された以上、どれだけ突っ込みどころ満載の最終結末であろうと読者は今更突っ込めない。

うまいなぁ、東野さんは。

ということで、内容をこれ以上触れることはミステリーものには禁物だろう。

内容に触れない感想を今少し。

ガリレオのシリーズと知ってしまった以上、テレビで一度でも見てしまっている者なら、誰しも謎解き先生とどうしても福山雅治が被ってしまうだろう。

作者もかなりそれを意識している様に思える。
風体の描きもそうだろうが、それどころか本の中にまでその名前が出てくるのだ。
しかも二回も。

もちろん、その音楽を聴くというくだりでだけなのだが、日本の小説の中で日本の役者の実名が出て来ることなど稀有なのではないだろうか。

作者なりの演者に対するサービスの気持ちの表れと言ったところなんだろう。

そりゃあんまりだ。そんなやつおらんやろう、と誰しも考えてしまうような決してミステリー作品としても一級とは言えない作品なのだろうが、やはり謎解きのラストまでぐいぐいと読者を引っ張って行く力はこの作者ならでは、なのかもしれない。

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