AX アックス伊坂幸太郎著
伊坂幸太郎の作品には何度か殺し屋が登場する。
今回登場するのは通称「兜」という殺し屋。
外では恐いもの無しの男が、家へ帰ると、そこまでして恐れる必要がどこにあるのか。と思うほどの極端な恐妻家。
何が食べたいと聞かれて「なんでもいいよ」という回答は一番いけない。
手がかからない、簡単にできそうなものをセレクトして回答する。
そして作ってもらった料理はどんな味でも一口でやめてはいけない。
相手の話には常に大きく相槌を打たなくてはならない。
「怒ってる?」と訊ねて「別に怒ってない」と答える場合は、基本的に「怒っている」。
会話はまず「大変だね」から始める。
という具合に妻を怒らせないためのマニュアルまで作り上げる。
妻に突っ込まれそうになるたびに息子がうまく助け船を出してくれたりする。
逆に息子からしてみれば、なんで母親にだけはあんなに卑屈になるのか、と疑問でならない。
この男、殺し屋稼業をもうやめようと思っているのだが、仕事を仲介してくる医者がなかなかやめさせてくれない。
このAXでは押し屋、檸檬、蜜柑・・などの別の伊坂本に登場した殺し屋たちの名前も登場してくるので少しうれしくなる。
途中まで読んで、どうも以前読んだことがあるような気はしていたが、類似の作品かもしれない、と読み進み、深夜デパートにデパートに来たシーンあたりでは既にその続きを知っていた。
最後近くのボーガンのシーンではっきりと蘇った。どのシチュエーションで読んだ本なのかをはっきりと思いだした。
蟷螂の斧あの時に読んだ本だ、と確信した。
そうだ。「蟷螂の斧」を所詮カマキリだなどと甘く見てはいけないのだ。
それをこのシーンではっきりと思い出した。
この男、殺し屋という物騒な商売をなりわいとしながらも、家族思いで、ひたすら優しい男の話なのだ。