獺祭


南国の小さな藩が舞台。

いわゆる剣豪小説という範疇の読み物だ。

道場主の主人公の目標は戦わずして勝つ。
いわゆる究極の強さを目指す。
あまりにも強いと評判になると、向って来ないだろう、というもので、さしずめ現代で言うところのナントカの抑止力を目指しているようにも思える。

と、言いながらも自ら編み出した秘剣というやつを使って一撃のもと、刺客を殺してしまう。
しかも二回も。
なんじゃそりゃ。

物語は四篇から成り、弟子の家庭での問題やらをその面倒見の良さで解決して行く話の運びが中心だが、剣についての描写よりも寧ろ軍鶏(しゃも)についての詳細な描写が印象に残る。

かわうそが捕まえた魚を岸の石の上などに並べるさまを獺祭(だっさい)というのだそうだ。
彼の正岡子規が名乗った号はいくつもあるが、その中に確か獺祭書屋主人という号もあったかと思う。

獺祭という響き、やけに文学的な匂いがするのだ。
この本、軍鶏好きの道場主の語。

主人公が獺祭の場面に出会う以外、獺祭とは無縁である。
何故そのような文学的響きのタイトルを付けたのだろうか。

この作品の前に「軍鶏侍」という一冊があったようだ。
ならばサブタイトルにある様に単純に「軍鶏侍(二)」のタイトルで良かったろうに。

へたに「獺祭」などという深みのありそうなタイトルをつけるものだから、読者は途中まで平坦に来ても、いやいや、これから深みが出て来るんじゃないか・・・。
と返って期待されて少々損をしている気がする。

タイトル負け、と言っては作者に失礼だろうか?

獺祭 軍鶏侍 野口卓著