はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか篠田節子


近未来を扱った短編四篇。

◎「深海のEEL」
駿河湾で突然獲れた巨大ウナギにとんでもない量のレアメタルが含まれていて、という資源問題から、最近話題の尖閣問題までが盛り込まれている小編。

日本近海の深海にはイラク一国の石油埋蔵量をはるかに超えるメタンハイドレートなどの天然資源があるのだ、とどこかで聞いた話を思い出してしまった。

それともう一つ。
ウナギの天然卵を世界で初めて、ハワイ沖だったかグアム沖だったかで採集することに成功した、というニュースを聞いたのは今年ではなかっただろうか。

何かそんな直近の話題を思い起こしながら読んでいると、なんだか半分実話じゃないのか、なんて錯覚を起こさせてくれる話。

◎「豚と人骨」
遺産相続した土地をマンションに、とマンションを建設しはじめたら、その地下から大量の人骨が出て来て・・・。
すわ、大量殺人事件か!いやいやそんな話じゃない。
縄文時代の人骨なのだが、何故そんなところに大量に・・という謎と奇妙な時代を超える寄生虫の話なのだが、そんなことよりも家を建てようとして、その地下から遺跡が出てきてしまうとどんな目に会うのだろう、とそっちの方に興味を注がれてしまった。

元近鉄バッファローズの梨田選手、現日ハム監督がかつて家を建てようとした時に、その地下から遺跡が出て来てしまったという話を思い出してしまった。

◎「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」
高性能のストーカーロボットに追いかけられる女性。
実はこのロボット、「ボノボ」という熱帯に生息し、生殖行動が人類に近いと言われるサルを姿は全く模していないが思考、行動を限りなく模したロボットだった。

村上龍の近未来小説の「歌うクジラ」の中には、人類がボノボの真似をするというシーンがあったのを思い出した。

ボノボって流行りなのか?

◎「エデン」
この小編がなんと言っても圧巻だ。
本のタイトルになっている「はぐれ猿は・・」よりもはるかにインパクトがある。

日本へ帰国したら、禅宗の雲水になってひたすら修行の道が待っている。
その日本への帰国間近のパーティで、大麻を吸ってしまった青年。
オトリ捜査でパーティ会場に居た連中が次々と警察に引っ張られて行く。

警察に捕まったとしてもアジアのどこかの国のように死刑になったりと、とんでもないことにはならないだろうが、簡単に領事館に連絡を取って釈放というわけにもいかないだろう。

そんな時に救いの手を差し伸べてくれた女性の車に乗ってしまったのが運のつき。
厳寒の雪の平原を何時間もぶっ飛ばして到着した集落で、いきなり彼女の父から彼女との結婚を迫られる。

厳寒の地で逃げ場はどこにも無い。
当たり前の如くに強要された作業。
2050年に完成させるトンネル工事だ。
酒もコーヒーも無ければ、テレビも電話も無い。
外の世界から切り離された世界。

地球の裏側で起こっていることを知って何の意味がある?
大地震があった。干ばつがあった。テロリストが事件を起こした・・・。
どんなニュースも我々に何の希望も与えてこれやしない。

彼女の父でもあり、その集落を率いる存在でもある男が言う。

そうなのだ。一昔前の、情報というものがその村落の中だけで閉じていた世界へとやって来てしまったのだ。

果たして近未来小説なのか。
最後、やはり近未来なのだ、と実感させられるが、何不自由の無いと思っていた世界が果たして幸せだったのか、という大いなる命題を突きつけてくる。
そんな小編でした。

はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか 篠田節子 著 文芸春秋<br />”  width=”62″ height=”90″></P></p>
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