輝く夜百田 尚樹著
この作家も泣かせる話を書かせたらうまい作家だ。
相変わらず「殉愛」以降、他の書き物はあってもストーリーテラーとしては沈黙のままだが・・、まぁいずれは書いてくれるんだろう。
これだけのストーリーテラーが沈黙のままでは、もったいなさすぎる。
この本、クリスマスイブの晩が舞台のとびっきりの話ばかりを集めた短編集。
「魔法の万年筆」「猫」「ケーキ」「タクシー」「サンタクロース」の五篇。
共通しているのは、皆、心根の優しい人で、真っ正直に生きていている。
決して恵まれているわけではなく、結婚とも縁がない。
・イブの日にリストラを言い渡される女性。
・イブの日にデートなどは無関係で派遣先の会社で残業をする女性。
・まだまだ若いのに、癌が全身に転移して、余命いくばくもないことを知った若い女性。
五篇の中でもその象徴のような作品が、初っ端の「魔法の万年筆」だろうか。
イブの日にリストラを言い渡された彼女に一人のホームレスが目にとまる。
ホームレスは「三日間、何も食べていません」と目の前に白墨で書いている。
彼女はとっさに千円札を出そうとして辞め、ハンバガーショップでハンバーグを買って来て、ホームレスに差し出し尚且つ、五百円玉も傍らに置いて行く。
なりが悪くては、店も売ってくれないだろうという配慮。
そんな彼女にホームレスから、願いを書けば三つだけその願いが叶うと言われて渡された、鉛筆。
それで彼女の書いた願いのなんと慎ましい事。
そんな彼女だからこそ、サンタこと百田氏は飛びっきりのプレゼントを用意する。
長編もいいけど短編もいいですね。
また新たな百田ワールド、期待してますよ。