ツナグ辻村深月著
死んでしまった人と会える。
但し、一生に会えるのは一度だけ。
死者の方から誰に会いたいというリクエストは出来ない。
死者は受け身で待つばかり。
生者からのリクエストを断ってもいいし、会ってもいいが、こちらもチャンスは一度っきり。一度会ってしまうと二度と生者とは会えない。
その仲だちをするのが「ツナグ」という人の役割り。
同じ設定でいくつかの短編が載せられている。
第一話は突然死した元アイドルのタレントとの出会いを望む女性が主人公。
バラエティ専門の元アイドルだからバラドルとでもいうのだろうか。元アイドルといいながらもバラエティでは超売れっ子のその人に会いたいと仲介を頼む女性。
同期の女子社員から残業を押し付けられ、真っ暗でたった一人のオフィスで自分の上の蛍光灯だけが灯っているようなところでもくもくと単調な仕事を続けるような人。
楽しみなど何もないような人なのだが、唯一の楽しみがその元アイドルが出ているテレビを観ること。
有名人だけに何人もの人がリクエストするんだろう、と気を揉むが、あんに反して彼女は会ってくれるという。
たった一回こっきりの生者に会えるチャンスを自分のためになど使ってもいいのだろうか、と今度は心配するが、あにはからんや、お別れの会で「もう一度会いたい!」と泣いていた人達など絶対に来ないのだ、と彼女は断言する。
不幸のかたまりのような女性と会ってこの元アイドルがどんな言葉を投げかけるのか。
浅田次郎氏などが好きそうな設定だ。
浅田氏が同じ設定で書いたなら、それこそ読者を涙でぐちゃぐちゃにしたことだろう。
そういう意味では辻村さんの作品はちょっと淡泊なのかもしれない。
同じ設定で、癌で亡くなった母に会いに来る壮年の態度のでかい男性の話。
婚約指輪を渡した途端、行方不明になった女性と会いに来る男性の話。
自分のせいで死んでしまったのかもしれない同級生に会いに来る女子高生の話。これなどは女性作家ならでは、だろうか。
その「ツナグ」の役割りを担うのは、この世の人以外のものだろうと思いきや、生身の人間だった。しかもまだ高校生。
さて、たった一人だけ亡くなった人ともう一度会えるなら、果たして誰を選ぶんだろう。