滅びの前のシャングリラ凪良ゆう著
凪良ゆうという作者、読ませますね。
この本読むの二度目ですが読み始めたら、もう止まらない。
1ヶ月後に地球が崩壊する。正確に言えば地球は崩壊しない。
巨大隕石が地球に激突するらしい。
人類は消滅する。
ネット記事を見た人達はどうせガセだろ、と笑い飛ばしていたが、首相が会見するに至って、どうやら本当なんだと皆、気づき始める。
一か月で皆が死ぬ。
さて、ここに登場する登場人物たちは皆、複雑だ。
学校で虐められてパシリをさせられていたポッチャリさんの少年、友樹。
小学生の時から憧れていた高嶺の花、NO.1美少女の同級生女子に虐められている現場を見られ、世界など滅んでしまえ、などと思ったりする。
方やその高嶺の花の方の同級生女子、雪絵。彼女も女王様のような立ち位置にいながらも複雑な問題を抱えている。養女として今の親に引き取られたのが幼いころ。養父母は彼女に実の親でない事は打ち明けつつも、愛情いっぱいに育てられた。その養父母に実子が埋めれる。養父母は分け隔てなく愛情を注いでくれるのだが、妹の名前が真実の子と書いて真実子。養父母にそういう意図があったかどうかはわからないが、愛情は妹に注がれ、だんだんと居場所がなくなっていく。
そんな時に起きたあと1ヶ月。
東京に住むどうしようもないヤクザもの。正式なヤクザ(組)にも入れてもらえず、便利使いばかりさせられている。喧嘩だけは滅法強い。兄貴分から便利使いで鉄砲玉を引き受けさせられる。そんな時に起きたあと1ヶ月。
実はこの男、いじめられっっこポッチャリ君の実の父親だった。
ポッチャリ君の母親、なんだかんだで一番強いのがこの女性。
あと1ヶ月と言われたって普通に平気で会社へ行こうとしたりする。
あと1ヶ月が宣告されてから雪絵はたった一人で東京へ向かおうとする。人気絶頂の女性歌手のLocoのライブが目的だという。その彼女を守ろうと友樹も東京へ向かう。
そにしてもどうだろう。
日本はこんな無茶苦茶な状態になるだろうか。
車は渋滞だらけ。いったいどこへ向かうんだ?
皆が仕事などやってられるか、となれば、店も開けてられない。物が無くなる。
無放置、無秩序、無政府状態でどの店も襲撃され、物を奪い合うのかあちらこちらが死体だらけって。
地球に10キロメートル超の巨大隕石が衝突する。
地球を救うブルース・ウィリスは存在しない。
しかし、落下場所もほぼ特定されている。南半球のどこかだ。
確かに大津波は来るかもしれない。
それでもその日を持って全人類が消滅するわけじゃないだろう。
その後異常気象は発生するだろうし、何年、何十年先に氷河期が訪れるかもしれない。
作物が取れず、食糧危機は来るかもしれない。
その日にすべての人類が死に絶えるのではなく、死に絶えるかもしれない危機の始まりが来る、という事なんじゃないだろうか。
全ての地域が崩壊するわけじゃないだろうから政府は食糧備蓄を各地に分散させたり、生きるための努力があちらこちらで始まるのが本当なんじゃないだろうか。
なーんて読み方をすると、この話は面白くない。
あくまで、その日で人類消滅、それを全員が信じている前提でないと。
そんな中で不思議な家族が誕生する。
友樹と雪絵と友樹の父親と母親。
彼らはこの1ヶ月をこれまでの人生の中で一番楽しんでいるのかもしれない。
女性歌手のLocoにしても同じく、この1ヶ月はようやく自分を取り戻す大事な期間となる。
滅びの前の1ヶ月だというのに登場人物達は皆、これまでの人生で一番幸福感を味わっている。
なんという皮肉だろうか。
最高に楽しい一冊だ。