薔薇盗人浅田次郎著
人生には貸借対照表があって、資産が多ければ多い分、負債も多いもんなんだよ。
なんてわかったような事を言ってくれる人がいるけれど、
この小品には負債しかないのではないか、という登場人物が表れる。
「奈落」これも負債ばかりの男の生き様、エレベータ事故で死ぬ事でその負債がチャラになった訳ではあるまい。
だが、私の中ではこの小品の中ではあまり好きな一品では無い。
なんと言っても「あじさい心中」が光っている。
この小品の中で感じさせる主人公のなんとも言えぬ男の優しさ。
場末温泉街のこの年増ストリッパーの人生の負債はどうなんだ。
見合う資産が有ったとでも言うのだろうか。
なんとももの悲しい。年増とはいえ、言葉の端はしに感じられる何とも切ないこの色気はなんなんだ。
誘われたら思わず心中付き合いをしてしまうかもしれない。
その前に私が相手では先方も心中なぞ、持ちかけまいが・・。
浅田さんという人はどういう人なんだろう。
「奈落」の中で死んで行く一流商社のサラリーマンでも無ければ、その同期の人事担当役員でも総務担当役員でもその社長でも会長でも無い。
この作品には登場していない。「死に賃」に登場する社長でも無い。
まさに「あじさい心中」の主人公であるリストラされたカメラマン。
その生き様がでは無い。思考回路がおそらく彼なのでは無いだろうか。
場末の年増ストリッパーの話を聞いて、感動するでも一緒に嘆くでも無く、素直に一緒に死んでやれる。
また、相手にそうさせたいと思わせる人物なのではないだろうか。
これはもちろん憶測でしかない。
なんせあまりにいろんな顔を持ちすぎている。
「鉄道員」を書いた彼はもちろん「ぽっぽ屋」では無いだろうし、
「天国までの百マイル」、これも優しい男なのだが、やはり筆者は登場していない様に思える。
そうかと思うと、「天きり松闇がたり」これはお薦め。内容はここでは語らない。
「歩兵の本領」これは自衛隊出身で無ければ絶対に書けないと思う。
この中にも筆者は登場していると思うが他の作品は他で書かれているだろうから
ここでは触れない。