モダンタイムス伊坂幸太郎


日常、普通に使っている検索エンジン。それは自分の興味を持った事、知りたい事に辿りつくための道具だ。

それが、逆の使われ方をする。

ある特定のキーワードで検索をした人をシステムの方が特定し、検索する仕掛けが構築されている。
そのキーワードで検索した人は、その人のためにあみだされた手段で大変な目に会う。
ある人は強姦魔として拘留され、またある人はSE、プログラマーという職を遂行する上で最も致命的なことに失明する。
あの男にだけは寿命などないのでは、と思われた男が自殺をし、人を拷問することをプロとして行う男は拷問攻めに遭う。

一体、背後にはどんな組織がいるのか。
どんな目的でそんなシステムを作り上げたのか。

主人公達はその正体を追いかけるわけだが、話はどんどん鵺(ヌエ)のような世界になって行く。

誰も悪いヤツなどいない。新犯人がいる訳でもない。それぞれのパーツ、パーツを受け持った部品のような連中がいるだけで、ものごと、そうなるべくしてなっている。

ヒットラーだって、ムッソリーニだって、それに対抗したチャーチルだって、みんな、歯車の一部なんだと言う。
まるで、チャップリンの映画「モダンタイムス」の中で、産業革命でオートメーション化された工場の中の工員が、これじゃまるで歯車の一部じゃないか、と言っているがごとく。

タイトルに使うだけあって、チャップリンの名言がいくつも引用される。

「ライムライト」から。「独裁者」から。

・人生に必要なもの。それは勇気と想像力、そして少しのお金だ。

そう言えばこの本では冒頭から「勇気はあるか」というセリフが何度も出て来ていた。

この「モダンタイムズ」同時期に書かれたという「ゴールデンスランバー」とよく比較される。
どちらも巨大権力というものに対峙しているからだろう。
でも私は「ゴールデンスランバー」より、「砂漠」を思い出してしまった。

「砂漠」に登場する西嶋という男は世界平和を願いつつも、することと言えば麻雀をひたすらピンフ(平和)であがろうとし続けることなのだが、彼はそれがどんなに小さなことであっても、目の前にある小さな悪を許さない。
小さな善を実行する。
そのための勇気を持ち続けている。
この「モダンタイムズ」を読みながら、その「砂漠」を思い出してしまった。

ここで何をしたところで、どうせどうにもならない。と諦めるか、目の前だけでも片づけるのか。

この本の舞台は今から半世紀ほど未来だが、さほど未来っぽさは感じない。寧ろ現代もののようにも思える。

いや、それどころかチャップリンの言葉のように時代を超越してしまっているのかもしれない。

モダンタイムス(上・下巻) (講談社文庫) 伊坂 幸太郎 (著)

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