7月24日通り吉田 修一


どうにもねぇ。
どうもタイトルを見ただけで本なぞ買ってしまいますと、こういう思ってもみなかった本に出会ったりしますね。

自分はこういうポジティブでない女性が主人公の本というのはあまり趣味には合わないのですが、と思いつつも・・どうしてでしょう。結局読み出したら最後まで引っ張られてしまいました。

吉田修一っていう人、男性なんでしょう。
それとも男性のペンネームを持った女流作家だったりして・・。

どう考えたって女性が書いたとしか思えないのは自分の偏見でしょうか。
どうしたらここまで女性に成りきれるのでしょう。

自分の住んでいる街を密かにリスボンになぞらえて、ジェロニモス修道院前のバス停でバスに乗り、ガレット通りにある会社へ出勤する。
地元の公園がコメルシオ広場に、海沿いの県道が7月24日通りに、地元の駅が中央駅に、と全ての場所がこの主人公によってリスボンの地名に置きかえられて語られて行くので、日本の地方都市が舞台のはずなのに何か全く違う風景を想像してしまいます。

それにしても何故ポルトガルのリスボンだったのでしょう。
ポルトガルと聞くと鉄砲伝来を思い出してしまう。
なんと単純。
リスボンと言えば壇一雄が愛した街ではなかったでしたっけ。
壇一雄はもう完璧にリスボンに溶け込んでいましたね。
普通の会社勤めなら働いているはずの平日の昼間に自前の手料理のネタなどを買いプラプラと歩き回るものだから、魚屋のおじさんなんかにも人気者になって街を歩いているとそこら中から気軽に声をかけられたりしていました。
気さくな人柄の多い街で壇一雄を読んでいるとリスボンに住みたくなってしまう人の気持ちが良くわかります。
リスボン、リスボンと書きましたが、壇一雄の愛した街は正確にはリスボン周辺の街だったかもしれません。
壇一雄の本は大方読みましたが、この本との共通性は皆無でしょう。

それにこの女性、海外旅行はハワイ以外は行った事がないという事が読んで行くうちにわかってくる。

そうすると余計に何故、リスボンだったのだろう、という疑問が湧いてくるのですが、そういうところが作者のうまいところなのでしょうね。

行った事もない街を想像して自分の街にそっくり当てはめてしまうなんてなかなか男の主人公にはそうそうさせられないですよね。

この女性、聞き手上手で相談されやすいタイプ。
取り立てて自分を素敵だとは思っていない。

それに対して彼女の弟は中学、高校と女子からの人気者で大学生になった現在も会社の後輩から慕われている。

同じバスに乗っただけで後輩が大はしゃぎをするほど。
それだけ小さな街なのでしょう。

それにしても初めて告白されたのが大してかっこいい男で無かったというだけで悔し涙にくれるものなのでしょうか。

このあたりは男性には全く想像のつかない世界なのであります。

カッコいいはずの弟が付き合っているのがみすぼらしい不似合いな女の子だと知った時の怒りに似た心境もも男性にはおそらく全く想像のつかない世界なのであります。

その不似合いな女の子に自分をかさねてしまう気持ち、これも男性には想像のつかない世界なのであります。

しかしながら、世の中アイドルやモデルばかりじゃあるまいし、自分を美人で素敵な人と思い込んでいる人ばかりではないでしょう。
という事はこの本は世の中の大半の女性の気持ちを代弁しているのかもしれません。

男性にはなかなか理解しづらいですが、女性が読めばかなり感情移入してしまうのかもしれませんね。

この本、既に映画化されていたようです。
映画は見ておりませんが、男性にも見てもらうためにはおそらくかなり脚色されたのではないか、などと思ってしまうのであります。

7月24日通り 吉田 修一 著

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