ブルー・ゴールド真保裕一著
やっぱり商社マンという職業はダイナミックだ。
かつて空港までのモノレールを動かしたのも商社マン。海を埋め立ててナントカアイランドを作ったのも商社マンが居てこそ。
海外の数々のプラント受注だって商社マンなしには話も始まらない。
先日、大学生による人気企業ランキングが日経の第二部に載っていたが、上位は損保に生保に銀行ばかりで、第二列目からようやく商社や家電などが登場したように記憶している。
損保、生保、銀行が人気なのは例年通りだが、商社のようなダイナミックさはなかなか求められないのではないだろうか。
この本、水資源というものに目をつけた作品。
ブルー・ゴールドというタイトルは水資源こそが金脈だ!という意なのだろう。
主人公氏は大手商社から一転、超零細のコンサル会社へ出向。
海外でのプラント受注の失敗、しかも上司の失敗の詰め腹を切らされた格好。
ところがその零細コンサル会社の社長、とんでもないやり手だった。
この零細コンサルの社長も5年前まではその大手商社の社員だった。
大手商社の看板を背負って仕事をするのと名も無いコンサル屋の名刺での勝負では、圧倒的に名の知れた企業の方に歩がある。
特に初対面の相手などであれば尚更だろう。
その社長はその不利な面を大手看板ではなかなか出来ない有利な面に変えてしまう。
水ビジネスに目をつけて、地下に水資源を持つワインメーカーを強引に買収する。
この本、このやり手社長のやり方といい、ハッキングなんか当たり前の如くで情報収集能力に長けた変わったパソコンオタク社員といい、話のテンポといい、なかなかに楽しくは読ませてもらったのだが・・・。
この地球で人類が利用できる淡水は、そのわずか1%なのだとか。
10億を超える人々が、この瞬間も飲み水にさえ困っているのだとか。
世界の企業が水をめぐる争奪戦を繰り広げる、・・・。
という類の言葉が本の帯には書かれているので、実はもっともっと世界規模でのダイナミックな話に展開するのではないかと、かなり期待を寄せながら読んだのだが、規模的には長野県の中央アルプス付近からは広がらずだったところ。
見えない敵を相手にするあたりもかなり期待を膨らませてわくわくしながら読んだのだが、グローバルな敵が暗躍しているものと思いきや、私怨がらみがオチだったって、それはさすがにちょっと・・・と、若干残念なところがあるのは拭えないが、それでもまぁ、軽い読み物としては最高の部類だ。
そう。ダイナミック系かと思いきや軽い読み物系になってしまったわけだ。
この本、2010年9月が初版。その前に週刊誌で連載をしていたのだという。
ちょうど、テレビのニュース特集番組のようなもので日本の地方の水脈のある場所を外国資本が買い漁っているのではないか・・などという話題が出はじめたのはその頃ではないだろうか。
今では結構、頻繁にそういう話題が持ち出されている。
案外、この本の存在が影響していたりして。
そういう意味ではなかなかに意義のある、決して「軽い読み物系」などと粗略に扱ってはならない本のようにも思えて来るのである。