海辺の小さな町宮城谷昌光


ある青年が住み慣れた東京で受験せず、愛知県の大学へ進学し、知多半島と思われる海辺の小さな町で暮らした4年間を描いたもの。

宮城谷昌光と言えば、中国古代の専門家。中国古代ものと言えば宮城谷昌光以外の名前はそうそう浮かんで来ない。
そんな宮城谷氏が、日本を舞台にした現代の青春小説を書いているというのを聞き及んで早速、購入に至った。

確かに青春小説には違いないだろが、ずいぶんと良く出来た学生さん達なのだ。
今どき、こういう学生さんにに巡り合うことはそうそうないだろう。
学生というより書生さんという言葉がぴったりとくるような学生さん達だ。

下宿へ入ったその日に隣の部屋の同じ一回生と早くも友達になる。
クラシックが好きでかなりマイナーな曲でもすらすらと作曲家やタイトルが言えてしまう。
女性に対する視点も一昔前の少年のような純朴そのもの。

宮城谷さんの学生の頃ってこんな感じだったんだろうな、と思わせられる。

主人公は友人のすすめもあって写真にはまり出すのだが、その描写はこの作品が写真雑誌に連載されていただけあって、かなり専門的なところまで掘り下げられている。

実際に宮城谷氏そのものも本格的に写真にはまっていた時期があって、この本にも出てくるような写真雑誌の月例コンテストに応募し、賞も受賞したのだという。

写真がテーマだからというわけではないだろうが、文章が写実的で美しい。
風景が目に浮かんで見えるようにも思える。

それを持って宮城谷氏らしいという評に出くわしたが、私はそうは思わない。
中国古代を描いている宮城谷本からはこんなありありとした風景は見えて来ない。

宮城谷作品の新たな一面を見たような気がする。

海辺の小さな町  宮城谷昌光

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