バーティミアス サマルカンドの秘宝ジョナサン・ストラウド著
ハリーポッターの物語では、魔法界とマグル(人間)社会では切り離されて、同じイギリスの中に人間界の政府があり、魔法界の魔法省がある。マグルはマグルの学校へ、魔法使いは魔法学校へ、各々が同じイギリスの空間に住みながら、棲み分けられているのに比べて、この物語の世界では、魔術師と人間はお互いの存在を知って、そして共存しています。
共存というより、魔術師が人間を支配していると言った方が正確でしょう。
魔術師は魔法使いの様に自ら魔法を使うのでは無く、妖霊といわれる悪魔を召喚し、その悪魔の助けをもらって、存在力を誇示する。
この物語ではイギリスの総理も大臣も官僚も支配階級は皆、魔術師なのだそうです。
そう言えば、鉄の女・サッチャーなどはそう言われてもおかしくないかな・・。
チャーチルはもっと人間臭いかな。
ブレア首相はやっぱり人間かな?そう言えばブレア首相もそろそろ退陣だとか・・・。
などとつまらない妄想にひたってしまいそうですが、人間臭いと言う表現は実は正しく無く、魔術師は人間そのものなのです。
先天的な才能では無く後天的な努力。つまり徹底した教育もしくは独学によるものです。
この魔術師の人達、どうも子供を作らない主義の様です。
世襲制度は無い。
政府が売られて来た子供(捨て子の様なものか)を順番で魔術師に弟子として引き取らせる。
子供が好きだろうが嫌いだろうが、関係無く。
世襲制度は名門を生み、派閥を生み、いずれ抗争事件へと発展するからという理由から。
そういう意味では魔術師は特権階級と言いながらも一代限りな訳であって、おそらく貧困の為に捨てられた捨て子が次代の特権階級になる、という非常にユニークな支配形態です。
また、魔法使いの様に何百歳も生きるという訳では無いですし。
この本の印象としてはやはりイギリスはプライドの高い国なんだなぁ、という点。
もちろん物語の上での話なのですが、中華思想の如くに大英帝国時代そのままの大イギリス思想と言いますか、イギリスで一番つまり世界で一番みたいなところがあります。
現に世界で一番通用する言語は英語ですしね。その普及頻度にはアメリカの貢献も大きかったでしょうが、なんと言っても英国で生まれた英語ですから、言葉の世界でも元祖。
世界で一番人気のあるスポーツのサッカーもイギリスが元祖。
主人公はナサニエルという少年の魔術師見習いと彼が召喚したバーティミアスという悪魔。
バーティミアスそのものは「悪魔」と呼ばれる事を嫌います。
ジンと呼ぶのが正しいそうです。
妖霊といわれる悪魔は強い順にマリッド、アフリート、ジン、フォリオット、インプ。
いわゆる異世界の住人達で、妖霊とも精霊とも魔物とも怪物とも悪魔とも呼ばれ方はさまざま。
ここでは悪魔としておきましょう。
この悪魔というのが、何百年、何千年の昔からの存在で、魔法を扱える。それだけ歴然とした力の差があれば、悪魔が魔術師に仕える必要は無いと思うのですが、そこがルール、掟というやつですか。
ペンタクル(五芒星)の絵の中から魔術師に召喚された悪魔はその命令を聞かなければならない。
ですが主人に対する忠義心などはかけらも無く、その裏をかこうとする。
バーティミアスの場合もそのあたりは抜け目がなさそうなのですが、どうも主人に対する愛情と言うかそこまでしなくても、と思えるほどに主人思いなのです。
バーティミアスが語り部になっている章ではやたらと注書きがあります。
またその脚注が面白い。
バーティミアスの独り言と言うか頭の中でのよぎった事、もしくは読者に対するサービスが書いてあります。
脚注など面倒だから、飛ばしてしまえ、とばかりに本文だけを読んでしまうと損をしますよ。
バーティミアスの背景、物語の背景が書かれていますから。
どうもこの本によると、いやバーティミアスの独り言によるとこの地球上の歴史の様々な出来事は全て、悪魔の仕業によるものらしいのです。
それにしてもハリーポッターと言い、バーティミアスと言い、イギリスという国にはこういう物語を発想させる何かがあるのでしょうか。
そういう日本だって忍者もの忍術ものは多いです。
忍術だって一般人からしてみれば魔術みたいに見えるかもしれない。
ですが忍術は魔法の様な異世界のものでは無く、あくまでも人力の範囲。
それは忍者の技術であったり、相手の目の錯覚を利用したものであったり・・・。
それに日本の忍者はマンガにある様なものでは無いとしても実在しました。
となると・・・。イギリスには魔法使いや魔術師と言われる人達が実在したのかもしれませんね。