ソ連兵へ差し出された娘たち平井美帆


なんだかこれを読むと現代の日本人よりはるかに誇り高く生きていたであろうと思っていた戦前の日本人が嫌いになってしまいそうになる。

ロシアがウクライナへ侵攻してから、もうすぐ1年半になろうかとしてている。
当初、ロシアが占拠した地域をウクライナが取り戻しくと次々と判明するロシアによる残虐行為の数々。
後ろ手で縛られたまま、要は無抵抗のまま頭部を銃で撃たれた数百の人々全て民間人である。そして、ロシア兵による略奪行為、婦女暴行の数々。
歴史は繰り返されるのか。

1945年夏、日本は太平洋戦争を全面的に降伏するわけだが、南方戦線とは全く別に日本の各地方の村々は満州の奥地という未開拓地域に開拓団を送り込んでいた。

そこへ襲い掛かって来たのが、ソ連兵だ。ウクライナでやっていること同様に略奪行為、婦女暴行を行う。

この満州開拓団への敵はソ連兵のみならず、満州で元々暮らしていた現地民。
彼らも次々と襲い掛かって来る。
そこでソ連兵との交渉役が現れる。
現地民からの攻撃から守ってくれないだろうか。

そして、その見返りとして差し出されたのが、開拓団に参加していた、十代、二十代の女性たち。

この本には開拓団の男たちの嫌な人間性が山ほど出て来るが、そもそも日本の兵士たちはどこへ行ったんだ。
ソ連兵がなだれ込んできた際に住民を守る兵士たちはいなかったのか。
無条件降伏に調印した事実を持って、交戦してはいけないと上が命令を出したことだろうが、自国民が略奪、凌辱されるのに対して交戦しないという選択肢はないだろう。

帰国間の期間、ずっとソ連兵の性の相手を強いられて、その彼女たちの性の犠牲があったおかげで、生き永らえた開拓団の人たち。
苦労してようやく、日本に帰り着き、元々暮らしていた村々に帰ったのはいいが、彼女たちの苦労がそこで終わった訳では無い。

彼女たちに助けられたはずの開拓団の男たちから、ソ連兵に身を売った者として虐げられて生きることになる。開拓団の地元が地方の狭い世間という事もあったのだろう。
日本へ帰っても東京、大阪で暮らしたなら、別の人生もあっただろうに。

なんていうことだ。

もちろん、ノンフィクションとしてはこの作者、片方からの取材しか出来ていないので、100%まるまる鵜呑みにする読み方は危険だろう。
だが、もう取材しなければ手遅れになる年齢の方々ばかり。
根も葉もない事を語る理由がない。

凌辱する側の非人間性、助けられたのにも関わらす、彼女らになんの報いもしないどころか逆に虐げた人たちの非人間性。両方の非人間性をあぶりだしている本だ。

ソ連兵へ差し出された娘たち 平井 美帆著