活動寫眞の女浅田次郎


京都を舞台としたお話。
時代は映画の全盛期が終わりを告げ、東京オリンピックを境に急激にテレビの時代に変わりつつある頃の学生達の話。
太秦の撮影所でアルバイトをしている彼らの前に現れたのは30年前に死んだはずの大部屋のエキストラ女優。
あまりにも美しすぎたために役が廻って来ない、なんて事があるのでしょうか。
百人の男がいたとしたら、百人が百人とも振り返ってしまうだろうというぐらいの美しさ。映画に出演させると観客はその女優に見入ってしまってもうストーリーどころでは無くなってしまうのだと言う。主役をも喰ってしまうほどの美しさ。
だから万年大部屋でセリフの一つももらえない。
そんな30年前の女優が目の前に現れる。
幽霊という扱いになっているが、これは幽霊のお話などでは無い。
愛すべき日本映画が無くなってしまう、という時代を背景にして最も活動写真が盛んだった頃に最も映画を愛しながらも力を発揮する事の出来なかった人々が時空を越えて、映画最後の時代に何かを刻みたかったのでないだろうか。

浅田次郎の作品で時空を越える作品と言えば「地下鉄に乗って」がある。
この作品は何度もタイムスリップを繰り返し、若かりし頃の兄に出会い、若かりし頃の父に出会う。古き時代をなつかしむノスタルジックな作品。

そういう意味ではこの本も映画ファンにとってはたまらない古き時代を懐古するノスタルジックな作品と言えるだろうか。

この作品是非とも映画化されて欲しいものだが、無理な注文というものなのでしょうね。なんと言っても見入ってしまってストーリーどころでは無くなってしまう女優がいなければならないのですから。

活動寫眞の女  浅田次郎著

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