ひとつむぎの手
四日間で二度読みしてしまった。
二回目に読んだ時もやはり最後のエピローグのところで目をうるうるさせてしまった。
今の世の中「働き方改革」大はやりで、残業するなんてもってのほか、休日に仕事へ行くなんてもってのほか。
そんなご時世と真反対な働き方をするのがこの話の主人公の医師。
彼は大学の医局の心臓外科の医師。
1週間の内、家に帰れたのはたったの1日。
当直でも無いのに、重篤な患者が居れば病院に泊まり込む。
決して手を抜かない。
というより、要領が悪い。
というより人任せに出来ないタイプ。
そこまで働き続けるモチベーションの源は一流の心臓外科医となって一人でも多くの人命を救うこと。
そのためにはいつまでも下働きばかりをするのではなく、最も開胸手術の多い病院へ出向して手術の腕を磨くこと。
そしてその病院へ誰を出向させるのかを決めるのは主任教授。
心臓外科などと一般の外科に比べたらはるかに患者数が少ないだろうに何故この科が最悪とよばれるほどの殺人的忙しさなのだろう。それはこの主任教授が有名な心臓外科医の権威でそこで手術を受けたいという患者が集まるからだろうか。
殺人的忙しさに耐えられなくなり、どんどん医局の人が減って行き、残った医者の負担が更に大きくなるという負の連鎖なのだろうか。
まぁ、双方なんでしょう。
その現役でさえどんどんやめて行く心臓外科へ入局先をこれから決める研修医を一度にに三名引き受け、その指導担当に主人公氏が当たることに。
三名の内二名を入局させられれば、希望の病院への出向を決めてくれる、と言う言葉をもらえば、どんなに忙しかろうと、引き受けないわけには行かないだろう。
研修医に対する、初っ端の対応に失敗して、3人との間に壁が出来てしまうのだが、彼ならではの真摯な取り組みを見て、一人、また一人と彼に心酔して行く。
なんにせよ、教え子の医者に「あなたの様な医者になるためにこの道を選んだ」などという言葉をもらえるほど幸せなことは無いだろう。
自らが目指していた一流のオペが出来る心臓外科医になる事よりもその価値は大きいだろう。