マスカレード・ホテル東野圭吾著
いつでも映像化して下さい感が満々な本だ。
配役が決まっている、と聞いても驚かない。
東京で起きた三つの殺人事件。
各々、加害者にも被害者にも接点は見当たらないのだが、犯行現場に残された謎のメッセージ。そのメッセージの共通性からこの三つの繋がらない犯行が連続殺人事件として取り扱われる。
各々のメッセージの中には次の犯行場所まで埋め込まれており、そして次の犯行場所として犯人が予告しているのが、この話の舞台となる高級ホテル。
推理小説としての流れは、まぁ読んで頂くとして、それより何よりホテルのお客様に対するサービス。
このホテルのサービスに対する情熱は並みのものではない。
そのサービス第一のホテルへ従業員に扮した刑事が張り付くというのだから、ホテルのスタッフにとっては溜まったものではない。
人に対する扱いや思いが正反対の人間がその正反対の仕事をする。
「いかにしてお客様に居心地の良さを提供するか」を思う人達の中に、人を見たら泥棒だと思う人間が入り込んではいびつに過ぎるだろう。
しかも、それがフロントとなれば目立って仕方が無い。
ところが、この刑事、日に日にホテルマンとしてプロらしくなって行く。
彼の指導係がそのフロントスタッフの女性なのだが、この人のホテルに対する思いも尋常ではない。
ちょっと文句が出ればルールを変えてしまうのはおかしいでしょう、という潜入刑事に対し、「お客様がルールブックです」と言い切る。
それにしてもホテルマンらしくなった刑事扮するフロントマンが、とある顧客のクレーム対応をするシーン、あれはいくらなんでもやり過ぎだろう。
お客様はルールブックだから、とほとんど言いがかりに等しいことまでもまともに言いなりになってしまってはホテルだっていくら人出があっても足りなくなってしまうだろうに。
「いってらっしゃいませ。お客様」
「お帰りなさいませ。お客様」
このセリフ、三谷幸喜の映画 『THE 有頂天ホテル』 を思い出させる。
そう、その映画でしか思い出せないということは、実際にはお目にかかったことがないのだろう。
それなりに出張やらでホテルを利用しているというのに。
やはり、それなりのサービスを受けるなら一流ホテルに、ということなのだろう。