吉祥寺の朝比奈くん 


本のタイトルってやっぱり大事ですよね。
この本、
「交換日記はじめました!」
「ラクガキをめぐる冒険」
「三角形はこわさないでおく」
「うるさいおなか」
「吉祥寺の朝比奈くん」と中篇5作が収められているが、「吉祥寺の朝比奈くん」以外の4篇のどのタイトルが本のタイトルになっていてもやはりこの本を読む対象をしては考えなかっただろう。

「交換日記はじめました!」という作品。
本来、二人で始めたはずの交換日記に割り込みの書き込みが入り、そしてノートは歳月を経て、人の手から、人の手へ、その人達がまたそこへ書き込みを残して行く。
二人で始めた掲示板に参加者が増えていった、というのともまた違う。
決してインターネットの掲示板のように広く開かれているわけじゃないんだから。
ある時は日記であり、ある時は次の書き手へのお手紙。

ちょっとめずらしいタイプの物語。

「ラクガキをめぐる冒険」、「三角形はこわさないでおく」、「うるさいおなか」なども各々コメントをしてみたいところはあります。特にこの「うるさいおなか」。
これなどはなかなかに楽しい。
それでもそこらは置いておいて、本題の「吉祥寺の朝比奈くん」に移ろう。

吉祥寺の朝比奈くん、なんて悪いやつなんだ。
そんなことをおくびにも出さないような性格をしているのになぁ。
吉祥寺の朝比奈くんっていう本のタイトルからしたって、悪いやつはなかなか想像しないわな。

「僕の場合、誰かと付き合いはじめても、すぐに関係が希薄になり、そのまま連絡が途絶えてしまう。人の心とはうつろうものだからしかたのないことだ」
という言葉でなんとなく納得させられてしまっているが、

ある女の子と付き合い、好きでしょうがなかったけれども別れることにし、新しい恋人と部屋に戻って来たら、その子が居て、包丁を持って大暴れ。
アパートは追い出され、バイトもクビ。新しい恋人とも別れて、泊まるところがなくなるが、新しいアルバイト先で知り合った女の子の家に即、居候する。
心のうつろいやすい性格だから、と聞いて、ああそうなんだ、と思ってしまうが、その行動原理って世の中一般では、女ったらしって言われるんじゃないのかなぁ。

そんな行動原理そのものはどうでも良いのだが、たかだか金のためだけにかなり用意周到な準備をして一人の女性を騙そうとする。
これはひどい。

それでもなんだかんだと最終的には許されてしまうところが、もてる男の特権なのだろうか。
大半の世の男たちはその理不尽さに歯がみすることだろう。

中田永一/「吉祥寺の朝比奈くん」/祥伝社刊