特命捜査 緒川 怜


この作者、かつて警察の鑑識とかそういう組織にでも居た人なんじゃないのだろうか、などと思わせるほどに警察内部の言葉などに詳しい。
死亡推定時刻の算定の課程、射撃残渣などの箇所も全く外部の人間が描いたとは思えないほどに描写が精密で、その臨場感があふれる。

招き猫の焼き物の工房を営む初老の男性の死体。物語はそこから始まる。
その被害者は実は10年前に公安を退職した人物だった。

その10年前に起こった出来事というのが、終末論を唱えているカルト集団が、自ら武器を製造して蓄え、最後には警察に施設を囲まれた中、教祖をはじめ集団自殺をしてしまう。
その残党のグループを根こそぎ、片付けたのが公安だった。

なんともあのオウム事件はいろいろな小説に影響を与えているらしい。

その公安の捜査官と警視庁、警察庁の刑事というのは根っから相性が悪いらしい。
刑事達は公安をハムという蔑称で呼び、
公安の捜査官は選民意識が強く、刑事達を「ジ(事)」という蔑称で呼ぶ。

この小説、そういう警察ならではの用語が散りばめられ、麻生幾の『ZERO』なども彷彿とさせるようなタッチで中盤から終盤の手前まではまではグイグイと引っ張り込まれるのだが、終盤がどうもなぁ、と残念でならない。

もちろん、結末を書くような愚は犯さないが、おそらくこれとこれは繋がっていたんだろうな、と徐々に想像を逞しくしていたものが、え?それとこれも実は繋がっていて、これとあれも実は繋がっている?ご都合主義と言う言葉を使いたくは無いが、何やらコナン探偵ものみたいなくっつけ方をしていかなくてもいいじゃない、と言いたくなってくる。
小説の中で「事実は小説より奇なり」を使うのはいかがなものなのだろう。

とは言え、そのような感想を持つのは少数派だろう。
何と言ってもそれまでの緻密な筆致があるだけで、まぁ充分に楽しめると言えば楽しめる小説である。

特命捜査  緒川 怜 著 光文社