かがみの孤城辻村深月著
2018年の本屋大賞受賞作品。
今年の本屋さん書店員さんたちの一押しはこっちの方面だったか、と少しだけ意外ではありましたが、それはかつての受賞作が
「海賊とよばれた男」
「村上海賊の娘」
「舟を編む」
みたいな結構な大作が多かったからというだけで、決してこの本を貶しているわけではありません。
文科省の出した「学校に行けない子供たち」いわゆる不登校の小中学生数は13万人を超えたとのこと。
中学生に絞れば、全体の4%を超えるのだという。
1クラスに一人ぐらいの割合で存在することになる。
そういう意味では、この辻村さんのこの本の受賞も時流に合ったものといえるのかもしれない。
この本に登場する不登校の中学生たち、ある日自分の部屋の鏡が光りだし、その光に導かれて鏡の中の世界に入って行く。
主人公のこころは中学一年生。
まったくどうでもいいような言いがかりの様なことでクラスを牛耳っていた女子の標的にされてしまい、結果、家に閉じ籠もることに。
鏡の世界の中ではしっかり者の中三女子や、ジャージ姿のイケメンやひたすらゲーム機に熱中する男子、計男女7名。
その世界へ入られるのは3月30日までと期限付きながら、そこは学校に行くより、どこへ行くよりも居心地がいい。
当初は互いのプライバシーに踏み込む質問をしないのが暗黙のルールの様になっていたのだが、メンバの女子一人が学校の制服で鏡の世界に飛び込んで来たことで明らかになる。
同じ制服じゃないか、と。
そう。全員同じ中学だった。
で、勇気をふり絞って学校へ行って学校で会おうという話になるが、約束の日に誰も来ない。他のメンバも同じで皆向かったが誰にも会えなかった。
メンバの中にはそれぞれの現実世界がパラレルワールドなんだ、という人も居たが、このあたりでだいたい、想定が出来てしまった。
そして現実界で母親が相談に乗ってもらい、こころのところへも何度も足を運んでくれるフリースクールの喜多嶋先生はおそらく未来のこの人なんだろう、と想像出来てしまった。
終盤にかけて、何故学校へ行けなくなったのか、全員の事情が明らかになって行く。
親が原因の深刻なものもあれば、自分のついた嘘が原因のきっかけがささいなものまで様々。
途中年度か登場するフリースクールの喜多嶋先生と言う女性が何度か口にする
「闘わなくてもいいんだよ」
「自分のしたいことだけを考えて」
は作者からのメッセージではないだろうか。
中学の3年間など永い人生の中のほんの一握りでしかない。
ほんの一握りではあるけれど、将来の自分を形成させる通過点としてとても大切な3年間でもある。
その3年間がただ辛かっただけでいいはずがない。
この本が、本当に悩んでいる人たちに何かを伝えられたのかどうかは定かではないが・・。