カテゴリー: 門田隆将

カウドタリュウショウ



疫病2020


今や寝ても覚めてもコロナコロナコロナ。人の話題もコロナ。天気の挨拶の代わりにコロナ。
テレビのニュースをつけてもコロナ。バラエティをつけてコロナの3文字を聞かない日はまず無い。

今これを書いている日のトップニュースは、東京一都3県にての緊急事態宣言の期間延長のニュースだった。
そもそも日本でこの新型コロナ(新型肺炎と言っていたか)についての初めて報道が為された1年3か月前に
その半年後、1年後にまだそのコロナの事をえんえん報じている日を想像し得た人が居ただろうか。

2019年12月に武漢にて原因不明の肺炎患者の症例が相次ぐ。
不審に思った医師の一人が調べたところ、SARSと同じ感染症ウィルスを確認。
すぐに医療関係者達に伝えなければ、とウィルスの情報を共有しようとしたところ、当局からストップをかけられる。
その情報を引き継ぎ、後に英雄となる李文亮氏が発信した途端、今度は公安が来て「デマを流した」という理由で彼を拘束してしまう。
この12月の初動にての情報隠ぺいが無ければ、世界はこんなことになっていなかったのではないか。
もちろんタラレバの話である。仮にここで隠ぺいしなくともやはり蔓延したかもしれないし、日本政府はやはり入国を止めなかったのかもしれない。

中国による初期の情報隠しは致命的すぎるが、その後の日本政府の対応もひどすぎる。
1月に入って武漢が大変な事はわかっているにもかかわらず、厚労省はまだ人から人への感染は確認されていないと、入国制限を行わない。
中国政府が武漢封鎖を行った後になってようやく湖北省からの入国制限を行うも、中国全土の入国制限は行わない。
門田氏によると厚労省は当初入国制限など全く考えもしなかったというほどに危機管理意識が無い。

感染対策の優等生である台湾はというと1月早々に中国からの入国をSTOP。
次から次へと相次いで感染対策を打ち出している。
この違いはなんだ、門田氏の嘆きは続く。

習主席を国賓として招いてしまっていたことが中国の入国制限へのブレーキとなり、夏にオリンピック・パラリンピックを控えていたことが、欧米からの入国制限へのブレーキとなり、初手の感染防止対策の判断をゆがめてしまう。

門田氏は何も政府だけを批判しているのではない。
180度態度を変えた専門家と呼ばれる人たちや、感染対策を真っ先に討論すべき国会で野党が追及し続けたのは未だ「桜を見る会」。これにも呆れている。

初手を誤ると、感染経路は全く追えず、あとは何もかもを停止せざるを得ない最悪の状態に。

わずか1年間のこととはいえ、この本は充分に歴史書だ。

コロナ後も世界からはどんな厄介事が日本に降りかかるかわからない。

迅速な判断と実行が出来る台湾を羨んでばかりはいられない。

2020年から日本は何を学んだのだろう。

疫病2020 門田隆将 著



日本、遙かなり エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」 


2020年の1月より始まった新型コロナに関するニュース。
あまりに多くのニュースがありすぎて、ほとんど1月、2月の出来事などは埋もれてしまっているが、その埋もれたニュースの中でもさらにほとんど目立たないニュースの一つに結構、快挙じゃないか、と言えるニュースが埋もれていたりする。

中国政府が武漢を閉鎖した段階にて、日本政府は政府専用機にて法人救出ということを行った。
報道では、帰って来た後の処置の方がメインで取り上げられていたが、
政府専用機にての法人救出ということそのものが結構歴史的な快挙なんだということが、この本を読むとよくわかる。

第一次湾岸戦争より前のかつてのイラン・イラク戦争の際、イランのテヘランには大勢の日本人駐在員がいたのだが、当初は地域紛争だったものがどんどん中心へと戦闘が移って行って、とうとうイランがイラクの首都イスラマバードを空爆するにあたって、各国の駐在員はどんどん国外脱出を図ろうとする。

欧米各国の駐在員達は皆、政府専用機やナショナルフラッグの民間機に乗って帰るのだが、日本人だけは乗る飛行機が無い。
日本航空はイラン・イラク双方からの安全を取り付けてくれないと飛ばせないというし、政府専用機もない。
そんなときにイラクのフセイン大統領が、あと48時間後にはどこの民間機だろうと、イラン上空を飛べば撃墜する、宣言を出した。

残された猶予は48時間。
大使館の職員の正直なコメントが突き刺さる。
日本政府はあなた方を助けません。

この時動いたのが伊藤忠商事でトルコ駐在の森永さんという方にトルコ政府に助けてもらえるよう要請してくれ、と。
トルコ政府にしたって、自国の国民が大勢テヘランに残っている中日本人だけを助けてくれなどといえるはずがない。なぜ経済大国の日本が、政府専用機を出さないんだといわれるのがおち。
ところが森永さんには当時のオザル首相との人脈があったので直接連絡して頼み込む。

そこで実現したのが、トルコ航空機によるトルコ人よりも日本人を優先しての救出。
トルコは飛行機2機を出してくれて、両側でその援護に戦闘機までつけてくれるという念の入り様。
これは映画にもなった、明治時代に、串本で遭難したトルコのエルトゥールル号遭難事故の時に、地元の漁民が命を張って救助してくれて無事にトルコへ帰還させたという、トルコでは小学校の教科書にも載っている事柄への恩返しがあったから。

なんだかんだと今の日本、明治時代の日本人にかなり助けられている。

その後、さすがに政府専用機ぐらいは保有せねば、と2機を購入するのですが
これがなかなか使えない。

南イエメン・北イエメンの紛争時、これも各国政府専用機で脱出しますが、日本は出せない。
イラクがクエートへ侵攻したのちもしかり。

政府専用機となるとパイロットは民間人では無理。
自衛官になりますから、自衛隊の紛争地帯への派遣に対して野党とマスコミが猛反発。

今年の初め、武漢は紛争地帯ではないけれどもあの時点にては病院崩壊が起きていくだろうことは予測できたので、邦人救出は必須だったでしょう。

それでも尖閣でもめている中国の領海はおろか領空を自衛隊が飛んでいくというのはまさに画期的な事ではないだろうか。

これを期に日本も普通の国になれればいいなと思った次第。

日本、遙かなり エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」 門田隆将 著



死の淵を見た男


東日本大震災、あまりに多くの死者をだし数多くの不幸な出来事が起こった未曾有の大災害だが、未だまだまだ先が見えないのが福島第一原発だろう。

総電源消失。
これのもたらした悲劇はあまりにも大きい。

この未曾有の危機の中、自らの命を顧みず、果敢に立ち向かった男たち。
闘ったのは吉田所長だけではない。
当日の当直長だった人。またその日非番だったが駆け付けたその先輩の人たち。

現場は明かりすらない。真っ暗闇。
通常なら制御版が原子炉の状態を教えてくれるはずなのだが、制御版も真っ暗なまま。
まさに手さぐり状態。

そんな状況、想像できるだろうか。
そんな暗闇に中、彼らは何度も真っ暗闇の中、手探りで原子炉へ向かおうとする。

原発事故のことを書いた本は何冊か読んだが、こんな心を揺さぶされるれる本には出会わなかった。
読めば読むほど、菅というあの時の総理大臣と言う役職にいた男への憤りが湧いてくる。
現場のプロがプロとして最善を尽くそうと命がけで行っている。
それをなんで東工大を出たということだけで自ら専門家気取りしたどシロートが口を挟もうとするのか。

自らのパフォーマンスだけのために、あろうことか国の最高指揮官の立場にある男がヘリで現地へ赴く。
ジャマをしに行っている以外の何ものでもない。

決死隊を送り出して、彼らからの連絡が途絶え、一時全員行方不明の状態になった時、吉田所長は、もう生きてここを出ることはないだろう、と覚悟を決めたという。
その後、全員無事であることが判明するのだが・・。

決死隊が何度もトライしようとしても近づく事すら容易ではない状況の中「ベントを何故やらないんだ!」

この男には、現場へのいたわりとか思いやりだとか、ねぎらい、というものが湧いてくる素地が全くないのだろう。

習近平相手に散々ペコペコしていた男が、いざ相手が変わればさんざん怒鳴り散らかす横柄な男になる。

全く最低のリーダーを最悪の時に持ったものだ。

そんな最悪の上がいる中、現場の人たち、自衛隊員、消防の人、出来る限り最善の事をやってくれた人たちのおかげで東日本は無事で済んだ。

無事で済んだとはいえ、第一原発はまだ片付いていない。

チェルノブイリ式の石棺で固めてしまうなり、なんらかの手立てで早期に終息を迎えて欲しいものだとつくづく思う。

死の淵を見た男 -吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-門田 隆将著