いにしえの光ジョン・バンヴィル


初老の男がひたすら50年以上昔を回想する。
15歳の少年だった彼は親友の35歳の母親から誘惑され、欲望の赴くまま彼女と結ばれ、そしてその関係を続けていく。
しかも大都会ではない。
ほんのちょっとしたことでもすぐに噂が広まってしまうような田舎町だ。

15歳の少年は時に友人の母に拗ねてみせたり、わざと周りに気づかれそうにさせて困らせたり、それでも彼女は彼を許してしまう。
記憶はところどころが断片化されていて、はっきり思い出せない場面もある。

してはならない恋に落ちた少年時代。

その語り手は少年時代の彼ではなく、初老の男だ。

エロティックに思えるようなシーンにいやらしさがないのは初老の彼が振り返っているからかもしれない。

主人公の男は役者をなりわいとする。
役者というにはあまりに文学的な人なのだ。
こんな文学的な表現をする役者がいるだろうか

本の帯を見る限り、娘を亡くした老俳優と父親を亡くした女優の物語のように見えてしまうが、そんな話ではなかった。

現実の話は確かに進行して行くのだが、常に主人公の頭は追憶の中の彼女にある。

この本の感想は本当に表現しづらい。
これまで読んだいずれのタイプにも属さない、そんなタイプの本だった。

いにしえの光 ジョン・バンヴィル 著