転々藤田宜永


全く相容れないはずの二人が行動を共にしていく内に、仲間意識というか、お互いへの信頼関係というか、ほんの少しの時間を共有しただけで何でも話せるまるで昔からの相棒の様な仲になっている。

お互いの年齢も職業も何もかも似てないのですが何故か「48時間」(48Hrs)という昔の映画を思い出してしまいました。
あれはエディ・マーフィーのデビュー作だったのですね。
そのエディ・マーフィーとニック・ノルティの「48時間」はリメイク版でしたっけ。
はっきりした事は忘れてしまいました。
『転々』の場合は、仮釈放中の囚人と刑事という関係とは全く違います。

大学へ行っていない大学生と丁度その親の年代ぐらいのオジさんとの二人。
片や借金取りに追われている大学生。大学へ行かないけど大学生。
片やその取りたてに来たはずのコワモテのオジさん。
大学生の方は借金の取りたてからも逃れなくなって来て逃げてそろそろマグロ漁船に乗る事も真剣に考えざるを得ないところまで来ていた。
要はドン詰まりですね。
何故かそのその取りたて屋さんは東京を一緒に歩いてくれるだけで、100万円を報酬としてあげよう、という奇妙な提案を持ちかける。
借金の80数万円もチャラになる。
そんなおいしい話が世の中あるわけが無い。
絶対にヤバイ事をやらさせる、と誰しもが思うでしょうね。
大学生ももちろんそうは思ったものの、最終的にはオジさんの話にのってしまう。

コワモテのオジさんは愛する奥さんを殺めてしまったと言う。
が、それさえ本当かどうかわからない。
名前もいくつも使い分けている様にも見えるし・・・。
全く素性の知れない人であるにも関わらず「一緒に東京を歩く」という行為の中で何故か芽生えるオジさんへの信頼関係。
信用がおけるはずも無いのに何故かだんだんと信用出来る人となって、それまで他人に話した事の無い事も何でも話す事が出来る様になって行く。

これは東京の旅物語、いえ東京でなくてもいいですね。都会を歩いて旅するお話。

何気なく通過しているこの都会をいざ歩いて見ると、いやはやいろんな発見があるものなのですね。
毎日学校へ通う、毎日会社へ通うだけの人間には絶対に味わえない体験でしょう。

移動手段に決して交通機関を使用しない。ひたすら歩く、というところが大切な気がします。

もちろん、目的地である桜田門へひたすら歩くだけなら何の出会いも発見も無いでしょうが・・。

それぞれの思い入れのあるところへ寄り道して行くところから物語はどんどん発展していきます。

豪邸に住んでいた息子が親を殺害して自らも自殺したため、売り手のつかない豪邸の管理をしている元使用人の老人とサラ金会社の社長婦人の老いらくの恋。

仕事が出来ないのに昔の青春ドラマの見過ぎの上司に叱咤激励されて嫌々仕事をしようとする弱気のブンヤ。

主人公の愛するストリップ嬢とストリップ劇場を巡る周辺の人々・・・。

いろいろな出会いというより自ら会うために出向いて行くわけですが、話はどんどん目の離せない展開にひろがって行きます。

この話、最後におまけをつけてくれているのですが、私個人の気持ちとしては最後は桜田門でサヨナラで終わっていても充分満足でした。
その少し以外と思える最後の展開は作者からの読者サービスでしょうが、私自身はそこまでサービスして頂かなくても・・・という思いが残りました。

ちなみにこの話、もうすぐ映画で封切りされるらしいです。

小説の映画化は多々ある事ですが、この話の場合、なんとなくですが映画化ではかなりモデルチェンジされるのでは?という様な気がふとしました。

映画ではまた別の物語に出会えるかもしれませんよ。