斗棋(とうぎ)


昨年出版の本で「ダークゾーン」(貴志祐介著)にという仮想世界の中での将棋やチェスに似たルールで人間が闘うという物語があった。

「斗棋」という話もそれに近いのか、と思っていたが、全く違う世界が繰りひろげられていた。

「ダークゾーン」は次のステージになれば再度生き返るが、「斗棋」はそんな仮想世界じゃない。一度きりの命を張った闘いだ。

舞台は江戸時代の黒田藩内にある宿場町。

博徒の二つの勢力が、いや組と言い換えた方がわかりやすいか。
本の中の言葉とは違うが、元は一つだった組が分かれて二つになって、縄張り争いだの抗争だのを繰り返している。

まともにぶつかりあったら、即、お縄になる。将棋での勝負なら問題あるまい。
そこで、始まるのが「斗棋」だ。

歩が互いに九枚ずつ、飛車、各、金二枚に銀二枚。

相手と駒が接触するまでの棋譜で言えば、普通の将棋と一緒だ。
▲7六歩 △3四歩と互いに角道を開けて角を取りに行くということは即ち角交換だ。
相手の角を頂く代わりに、自分の角を相手に差し出す。

どころが「斗棋」では、相手の角の上に角を置いた段階で、互いの角の役割を与えられた子分同士が命を張った闘いをする。
勝てば、相手の角は盤上から消え、手駒にもならない。
だから、相手の角を頂く代わりにがない。その角を銀で取りに来れば、その銀の役を担った子分と角がまた闘う。

親分はもちろん、玉だ。
将棋のルール通り、玉が取られたらそれでゲームセット。
極端に言えば、△8四歩 △3三角成(王手)で三手で玉を倒せばそれでゲームセット。

逆に「詰み」というものも発生しない。
これまた極端な話、自陣の駒が全部相手に倒されようとも、玉が残りの勝負全て勝ってしまえば、手駒無しでも勝ててしまう。

ならばやはり、喧嘩の強いヤツが一人居れば勝つだけじゃないか、と思うかもしれないが、そのとことん強いやつをどこに配置して、次の手をどう打つか、という戦術が大事になる。
とことん強いやつが居たところで、そいつをかわして玉だけを狙いに行く戦術もありえる。

物語としては、そんな戦術めいた話があるわけではない。
侍同士の斬り合いでは無く、田舎の博徒同士の泥臭い命掛けの闘いだけにやけに生々しい、そんな闘いが繰り広げられる。

と、出版されて間が無い本なので、未読の方のためにも本筋をはずした本の紹介をしておきます。

斗棋  矢野 隆 著 (集英社)トウギ