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成瀬は天下を取りにいく

この表紙の絵、どこかで見たことがあるな、とずっと思っていてやっと思い出した。

琵琶湖マラソンのポスターに使われている絵じゃないか。

会社の近所にあるスポーツイベントの会社の外窓に他のイベントに並んでずっと貼られていた。

地元開催のマラソンのポスターとは地元愛の強い成瀬にぴったりだ。

主人公の「成瀬あかり」は幼い頃より、勉強は誰よりも出来、運動も誰よりも出来る、
勉学もスポーツも出来る、よく言えば「文武両道」なのだが、はた目から見ればちょっと変人なのだ。

本人は自分に正直に生きているだけで、なんら変わったことをしようというつもりはないのだが、はた目にはあまりにも発想が奇抜だったり、直さがひと目を気にしなさすぎな点でそうしてもそう見られてしまう。

西武大津店が2020年に閉店することに伴い、地元ローカル局では閉店日まで毎日、短い時間だが西武大津店で中継が行われる。
何を思ったか、成瀬はその中継のどこかに西武ライオンズのユニフォームを来て最終営業日まで毎日映り込むことを決める。
ロケのインタビュアーは一切相手にしないが彼女は必ず背景のどこかに移っている。

彼女は西武大津店にひと夏捧げる覚悟なのだ。

そうかと思えば、幼馴染の島崎と一緒にM1に出て天下を取ろう、と言い出し、本当にエントリーしてしまう。
コンビ名も地元の膳所にあやかって「ゼゼカラ」。

そういえば、琵琶湖マラソンのポスターの成瀬のユニフォームにはSEIBUではなくZEZEKARAとあった様な気がする。

どにかく信じた道を突き進む。
そしてくじけない。
他人の目や評価は気にしない。
こんな魅力的な高校生「が「いるだろうか。

彼女の話し方には敬語とかが存在しないのだが、高校での部活でかるた部に入部し、早速その実力の片鱗を見せるが、高校の部活で先輩に敬語無しで貫いたにだろうか。

ちょっとだけ気になった。



騎士団長殺し


主人公は36歳の画家。
義務感で書いて来た肖像画。
どこかの社長室にでも飾られるであろう肖像画。
滅多に人目には触れない。
作者が誰かなどは誰も気にしない。

しかし彼は特殊な能力を備え持っていた。
一度目にしたものをありありと再現できる才能。記憶力。
人の本質を見抜いて描ける能力。

でもその本質をそのまま絵にしたりはしない。
あくまで相手の気に入るような絵に仕上げるのだ。
だから芸術家でありながら芸術家ではない職業。
生活を維持するためだけにやって来た職業。
それも突然の妻からの離婚申し入れにてやる必要がなくなる。

妻から告げられたその日に家を出て東北・北海道を放浪し、行きついた先が友人の家の別別荘で、その父親がアトリエとして使っていた小田原の山の方で、隣近所へ行くにも車が要る様な辺鄙で静かな場所。

そこで出会う免色というなかなか個性豊かな紳士。
その人の肖像画を描くことによって新たな才能が開花したかもしれない予感。

免色氏の娘かもしれない少女。

友人の父親の画家が書いて世に出さなかった「騎士団長殺し」の絵。

そして登場する騎士団長。

第1部の顕れるイデア編の読後は第2部を読みたくてうずうずしていた気がする。
第2部も第1部の流れを踏襲してストーリーは進んで行くのだか、メタファーのあたりからどうなんだろう。
もうなんでもあり状態か?
確かに第1部のイデアの騎士団長もなんでもありの一つではあるにはあったが、微笑ましい存在でもあったしね。

ただ、至る所に見られる、見事な比喩の表現。
まるで○○が○○したかのようなという表現の巧みさ。一気に書き上げてこういう表現がすらすら出てくるとしたら、やっぱりこの人は天才なんだろうな、と思う。

ちゃんと英訳後とかも意識しながら比喩の言葉も選んでるんだろうし・・・。

この話では絵画を文章で表現する、という事が行われている。

いずれ映像化されるんだろうが、その時にこの見た人に衝撃を与えるような、インパクトのある絵が映像の中でどうやって再現されるのか、大いに見ものだと思っている。

騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編 第2部 遷ろうメタファー編 村上 春樹著



桜風堂ものがたり


全国の書店員さんはほぼ全員応援するのではないだろうか。

老舗だが時代遅れの百貨店の中のテナントの書店。
その書店にはカリスマ書店員が何人もいる。
主人公の青年はその本屋で学生のアルバイトからはじめて、10年勤務。

書店というのはその売り場売り場を任された者のカラーが棚に反映されるものらしい。
取次店から毎日、山のように配信される本、それらは一定期間の間に売るか返本してしまわない限り、取次店に引き取ってもらえない。
毎日、毎日、本の入替作業、大変な仕事だ。
おのずから売り場の人間の個性が棚作りに反映されて行くのだろう。
来た本を棚のどこに配置するのか。
出版される前から、どの本に目をつけてどれを版元や取次店に依頼するのか。
売り場責任者の裁量次第だ。

主人公の青年は目立たない存在ながら、宝探しの名人と異名をもらうほどに隠れた名作を見出す能力を持っている。

ある時、万引きの少年を追いかけて、その少年が事故に遭ってしまったことから、「行き過ぎだ!」そ騒ぎはじめられ、その噂がネットを駆け巡り、店の迷惑、百貨店の迷惑になるからと青年は辞めてしまう。

そこで以前よりBLOGで知り合い、後にインターネットの世界だけで親しくしていた桜風堂という地方の本屋を訪ねるのだった。

現代の活字離れの大元の原因を作ったのがインターネットの普及と言われている。
本屋がどんどん潰れていく原因になったのは、活字離れだけではない。
電子書籍の登場も一因だろうが、amazonのような通販大手がどんどん本を販売する。

地方の品揃えの悪い書店が立ち向かえられる相手ではない。
それでも書店員は、自らPOPを作ったり、イベントを催して見たり、直にお客様と触れ合うことで、本の温かみを伝えたり・・。
などなど書店に来てもらってでしか出来ないことは何か、を模索し、日夜苦労しているわけなのだ。

それなのにそれなのに、この本の登場人物たちは、SNSを多用し、BLOGやメールなどインターネットをフルに活用する。
本来、書店にとって大元の元凶だったはずのインターネットと仲良くしているわけだ。

もはやインターネットが元凶だなどと、言っていられない時代なのだろう。
共存しなければね。

書店員さんたちがお薦めする本のTOPに来るのが本屋大賞。

全国の書店員さんたちはこの本に本屋大賞を受賞してもらいたかっただろうな。

でも、受賞すればあまりに身びいきなので、ちょっと遠慮したのだろうか。