検察側の罪人雫井脩介著
当初はそんなこともあるのかなぁ、読んで行くうちに話がどんどん奇想天外な方向に・・・。
東京の某所で老夫婦の殺人事件が起こる。
老人は何人もの人にお金を貸していたので、その借金をしていた連中がまず捜査線上にのぼる。
検事というのは警察の捜査官が犯人容疑者を特定し検挙して自供を取ってようやく起訴状を、と言う時になって初めて登場するものだとばかり思っていたが、検事も捜査会議に参加したり、捜査官と一緒になって捜査方針を決めたり、取り調べを捜査官と交替でしたり、ということもあるらしい。
この物語に登場するのはベテランの敏腕検事と将来有望な新人の検事。
ベテランの検事が学生時代の頃住んでいた寮に、その寮母の娘が居り、まだ中学生だったこともあって妹のように可愛がっていた。
その娘さんこともあろうに今から23年前に暴行殺人で殺されてしまった。
その犯行には、ほぼ間違いないだろうという有力な容疑者が居たにも関わらず、自供が取れないこともあり、担当検事がウンと言わずで結局起訴には至らず、その事件は時効を迎えてしまった。
今は法改正で殺人事件に時効は無くなったがかつては殺人でも15年で時効だった。
その時効を迎えた23年前の有力な容疑者の名前を今回の事件で借金をしていた連中の中に見つけてから、この敏腕検事はおかしくなる。
他に容疑者と思わしき人間が現われても、この容疑者が犯行を犯すには矛盾した事実があったとしても、
容疑者が全く口を割らなかったとしても、無理矢理この容疑者が犯行を犯すべくシナリオを作って行く。
将来有望な新人検事の方は途中から何かおかしいと思いながらも、ひたすら容疑者の自供を得ようとする。
なんだか、途中まではなんだかありそうな・・・と思っていたら、真犯人を見つけながらもその真犯人を逃がす(実際は逃がさずに自分の手にかけてしまうのだが)あたりから、これはいくらなんでも有り得ないだろう、という展開になっていく。
最後の最後には、本当の正義って何なんだ、という終わり方をして考えさせられはするのだが、なんともすっきりしない。
この事件、有罪となれば死刑となる可能性が高い。
そんな事件なら冤罪事件として騒がれるので慎重になるかもしれないが、もっと軽い犯罪なら叩けばほこりが出る様な立場の人間でさえあれば、案外日常的に犯人に仕立てあげていたりしているのかもしれないなぁ、いや少なくともそういうことは可能なんだろうなぁ、とは考えさせられる一冊でした。