11/22/1963スティーヴン・キング著
今年の11月に駐日大使として赴任したキャロライン・ケネディ。
その就任の時に馬車で皇居へ向かう彼女を見た人々の歓声たるや、熱狂的なものであった。
ジョン・F・ケネディの娘というだけで、(もちろんそれだけが理由ではないだろう。彼女が親日家で美人だということも理由のひとつだろうが)それだけの人々を熱狂させるほどに父のケネディ元大統領は日本でも人気があったし、アメリカでも人気があった。
その人気が今でも続いている最も大きな理由はやはりあの暗殺事件にあるのではないだろうか。
若干43歳で大統領就任。
四年の任期を終えて二期目をむかえる頃になると、かなりボロが出て来て、就任当初の人気とは程遠くなるものなのだろうが、ケネディはまだ人気絶頂期のまま、他界してしまったのだ。
この物語は過去へと旅立つ物語。
主人公は30代の高校教師。
なじみのハンバーガー屋のオヤジから過去へ行く道を教えられる。
そのオヤジ、何度も何度も店の裏にある抜け穴を通って過去へと行き来し、あろうことか50年前の貨幣価値を利用して肉を仕入れていたのだ。
なんとちっぽけな!せっかくの過去への旅をそんなことに使っていた。
必ず、行った先は1958年の同じ日の同じ場所。
二回目に行けば一度目の訪問はリセットされ、前回会った人とは向こうは初対面。同じように話しかければ、全く同じ会話のやり取りが繰り返される。
そのあたりが「バック トゥ ザ・フューチャー」とは異なるところ。
オヤジ、せっかく過去へ来れているという重要性に気が付いたのか、1958年からあと5年を過去で辛抱して、ケネディ大統領を助けようと思い立つ。
ベトナムへの介入に否定的だったケネディの死後、大統領になった副大統領のジョンソンはベトナムへの北爆を開始する。だからケネディの暗殺を阻止すればベトナム戦争で亡くなった何百万というベトナム人やアメリカ兵の死者を助けることが出来るはず、というのがその考え。
過去へ行くことが毎回リセットと言ってもそれはあくまでも過去だけでそこで過ごした年月分だけ自分自身は年老いて行く。
歳を取り過ぎてタイムリミットとなったオヤジは主人公氏に過去へ行って、オズワルドの暗殺の阻止を主人公氏に委ねるのだ。
果たしてオズワルドさえ殺してしまえばケネディは救われるのか?
ケネディの暗殺には、現代でも全く解明されないままの謎や陰謀説が山のようにある。
マフィア犯人説、KGBによりものから、CIAの犯行説、兵器産業陰謀説・・・。
オズワルドは実行犯だけをやらされた使いっ走りだったのか、そもそも撃ったのが本当にオズワルドだったのか、さえ確かとは言えない。
そこで、オズワルドが単独で行ったものという確証を得てからオズワルドを阻止するという難しい選択肢を主人公氏は選ぶわけだが、過去は変えられることに対してとことん抵抗してくる。
この本を書くにあたっての過去への調査は並大抵のものじゃない。
なんせ見て来たかの如く事件前のオズワルド周辺が描かれている。
今では歴史の小さな一コマに過ぎないキューバ危機の時の多くのアメリカ人の心境がどんなものだったのか。まるで全土が9.11直後のような大騒ぎの状況をリアルに描いている。
はてさて、オズワルドを阻止してケネディが生き永らえたとしてどんな未来(現在)が現出するのだろうか。
なんとも壮大な物語なのだ。