あやし うらめし あな かなし浅田次郎


ホラー、怪談、怪奇談などと、ジャンルではひと括りにされてしまうかもしれないが、所謂ホラー小説などでは決してない。
霊的なものを取り扱った七話のお話。

最初の「赤い絆」と、最後の「お狐様の話」は作者の母方の実家で聞いた話を元にしているのだそうだ。
「赤い絆」は心中事件の顛末。「お狐様の話」は狐に取り憑かれた由緒正しき家のお嬢様を預った作者の母方の実家であった話が元で実際に伯母や母からその顛末を聞いたのだという。

「虫篝」
戦争末期、南方戦線で飢餓しかけになる男の前に現われたのは、まだそんな飢餓状態になる前の自分そのもの。
その現われた自分と魂を入れ替えて生き残る、という不思議なお話。

その話が現代を生きる主人公にどうつながるのか・・・。

「骨の来歴」
ある男の語り。
学生時代に好き合った女友達が居て、共に受験勉強をする。
男は貧乏の苦学生。方や女友達の実家は裕福な家庭。
無事に合格してから付き合えと女友達の親から言われ、男は無事に合格するが、携帯電話の無い時代、彼女が合格したのかどうかは家へ電話する以外にない。
ところが電話に出て来た母親は、
「もうご縁が無くなったはず」
「今さらお行儀が悪いんじゃございませんこと」
などと言われてしまう。
そればかりか、父親も訪ねて来て「身を引け」と言う。

「念ずれば通ず」とは使い道が違うかもしれないが、彼の念力は通じてしまう。

「昔の男」
流行らない病院で居つかない看護婦。
総婦長の跡を継ぐのは現婦長、そしてそのあとを継ぐのは唯一居ついている主人公の看護婦。
そこへ現れるのが先先代の院長。
その院長は志願して軍医となり、南方へ送られた人であった。

この物語については浅田氏がかつて医大の卒業生名簿を見た時の感想を述べている。
その卒業生名簿のある年度のところをみると、戦死、戦死、戦死・・・・と軍医で出征して戦死している。
本来人の命を救う人が、人を傷つけ合い殺し合う戦場へ行って何をしたのか。

霊がどうの・・などという話ではない。
そんな悲劇をさりげなく盛り込みながら書いている。

他に「客人」、「遠別離」。

本のタイトルに「あやし」や「うらめし」などとあるが、うらめしい話などではない。

怪談めいてもいない。

敢えていうなら、浅田次郎の手による「民間伝承」っぽい、現代に作られた物語集といったところだろうか。

あやし うらめし あな かなし (双葉文庫) 浅田次郎著

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