震える牛相場英雄


捜査本部が置かれるような重要犯罪、それが一ヶ月もたって、状況が進展しないと、本部は縮小され、その後お蔵入りになって行く。
そんなお蔵入りの事件を任される、窓際のための部署が捜査一課継続捜査班。
その継続捜査班という本来、陽の当らない部署にあって、これまでお蔵入りして来た事件を解決に導いた老刑事が主役である。

この本は小説、2012年ミステリNO.1と帯には書いてあったが、果たしてミステリという範疇のものだろうか。
ミステリ小説という形態はとってはいるものの、内容は寧ろ社会派小説。
著者の凄まじいメッセージが伝わってくる。

事件は2年前の都内の居酒屋で起きた。

全身黒づくめで目だし帽を被った男が「マニー!マニー!」と叫びながら、レジから現金を奪う。
金目当てなら、現金を得たところで逃げるだそうに、客席へ行って、二人の客を惨殺してから逃走。
殺害されたのは、新潟の産廃業者の男と仙台の獣医師。
二人に接点は無い。
捜査本部は初動から「金目当ての不良外国人」に絞り込んだが結局行き詰まり迷宮入り寸前。
この事件を任されたのがその継続捜査班の老刑事。

方や殺人事件の犯人探しとは別の物語が併行して進んで行く。

全国に大型ショッピングセンターを拡大して行く大企業。
ショッピングセンター(SC)や他の大型チェーン店の進出により、地方都市の商店街はシャッター通りとなり、大抵のショッピングセンターは郊外に作られるため、車を持たない老人達は買い物難民となる。

その大型SCも進出当初はいいが、肝心のスーパーは利益率が低い。
高収益を支えているのが、店子として入っている、スポーツメーカーや衣料メーカーの一流店からの歩合収益。

これらも一流ブランドがどんどん撤退して行くと、先行きはどんどんあやしくなる。

集客が思うようにいかなくなると、そこを閉じてまた別の場所へ出店する。
そうして、地方を根絶やしにした後、撤退された後の地方には何も残らない。

そんな大手SCのやりように憤慨し、立ちあがるのが、一人のネット新聞記者。

彼女の奮闘により、SCの中で売られている加工肉製品がマジックブレンダーなる怪しげな、肉交ぜ機械で作られていることを突き止める。
そのメーカーこそが、まさに一時社会を騒がせたあのミートホープの社長と全く同じやり方の混合肉づくり。

後半で出てくる、BSEの問題、口蹄疫問題、原発放射能による牛に対する風評被害の問題。

食の安全を守りたい、地域の商店街よよみがえれ、真面目な農家を風評被害で苦しめるな・・・などなどいくつものメッセージが伝わってくるお話なのでした。

震える牛 相場 英雄 (著)

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