GOTH乙一著
これはミステリーというジャンルの小説なのだろうか。
本格ミステリ大賞という賞の受賞作だという。
主人公は猟奇殺人などに異様に興味をしめす高校生。
もう一人同じ様に猟奇殺人などに興味をしめす女子高校生が登場する。
二人は最近近所で起こっている連続殺人事件の犯人知りえないようなことが書いてある手帳を入手する。まさに犯人の書いた犯行記録というものなのだろう。
その中にまだ報道されていない犯行の記録があり、二人はその死体を探しに行く。
この二人が犯行を犯したわけでもなく、人を殺傷したいという欲望を持つわけでもないのだが、その異様な犯罪者に対する、憎悪や、うす気味悪さの気持ちや、恐怖などの心は全く持ち合わせない、いやそれどころか、犯人に対する共鳴感やあこがれに近いものを抱いているのかもしれない。
もちろん手帳を警察に届けるなどということをしないどころか、犯行現場から被害者の持ち物を持ち去ったりもしてしまう。
もちろん、犬の連続連れ去り事件にしても、その女子高生の妹の死についての解明の話もミステリーと言えばミステリーなのだろう。
この本の文庫版ではあとがきで作者そのものが、ミステリ大賞受賞という事態をいぶかしんでいる。それほど話題になると思っておられなかったのだろう。その短い文章の中で、犯人も主人公も妖怪だと思って下さい、と述べておられる。
猟奇殺人というもの後を絶たない。
直近では秋葉原で起きた無差別通り魔殺人。
そしてそれら近年の猟奇殺人の走り的な存在である多摩川沿いの連続幼女誘拐殺人事件の宮崎何某に対する死刑執行。
宮崎に対する死刑執行については「早すぎる死刑執行」という論調の報道が有り、秋葉原無差別通り魔に対しては非正規雇用社員の鬱屈という社会的な背景を原因とするなどという論調の報道がなされる。
宮崎何某については、事件から20年も経過しているというのにあれだけ残虐な殺人者に対する執行がまだされずに生きていたのか、と思った人が大半だろう。
連続通り魔について社会的背景を因果関係とするに至っては、呆れる果てるほかはない。
連続殺人事件そのものはもっと以前より何度も起きてはいたことだろうが、
「殺人をしてもその何が悪いのかがわからない」
という類いのコメントが出てくるようになったのはやはり宮崎の事件からではないだろうか。
GOTH という本はもちろん、それらの凶悪犯罪を擁護するものでも煽る目的のものでもないことは明白であるが、そういう誤解を招き易い要素はあるのかもしれない。
ただ、そういう事件の後に必ずなされる、事件についての山のような報道を見たり読んだりするよりも、わけのわからないコメンテーターの知ったようなコメントを山ほど聞くよりも、GOTH の主人公のようなそういう事件そのものに共感を示す若者の気持ちを知ることの方が有用かもしれない。
秋葉原の無差別通り魔に対しても「神だ」などという声は大げさすぎてサイト誘導的な要素から生まれたのかもしれないが、「気持ちはわかる」的な共感者の数は相当居る、というのは本当かもしれない。
GOTH という本、作者の意図に反してかどうかはともかく、それなりに話題性を持つ要素は充分にあったであろう。
それにTVコメンテーターのその場しのぎのコメントを一生懸命に聞くぐらいならこの本を一読する方がはるかにましに思える。