カテゴリー: 夏川 草介

ナツカワソウスケ



スピノザの診察室

少し前のNHKのドキュメンタリーで、北陸地方の田舎町での過疎医療を行う診療所の老医師がピックアップされていた。

その田舎町の人全員の医療を受け持つ、ある意味ドクター・コトー的な存在。

老齢化が進む過疎だけに死を看取る事も多い。
まさにこれから死を待つのみという老患者やその家族への接し方が明るく、フレンドリーで悲壮感はこれっぽっちも無い。

こちらの舞台は京都市内。過疎地域とは全く違うが、死に寄り添う医師の話。
かつては大学病院で将来を嘱望された最先端医療に携わるエリート医師だった。
妹が若くして亡くなり 一人残された甥と暮らすために大学病院を辞め、末期患者に寄り添う地域に根差した医療を行う小さな町中の地域病院で働く。

この先生の患者への取り組みを読んで行くにつれ、冒頭のドキュメンタリーを思い出した。

大学病院の先生なら病気を見つけて治すのが医者の仕事だと思っているでしょう。
地域の町医者は違う。
もちろん治る事、治す事が目的の場合もあるでしょうが、ほとんどの場合は、医者の仕事は治すことではなく治らない病気にどうやって付き合っていくのか、ということ。

もう、ダメだろうと諦めかけている患者に対して、この先生は「頑張れ」とも「あきらめるな」とも言わない。
ただ「急がないで」と言う。

ただ、マチ先生と呼ばれているこの先生に看てもらった患者さんなら共通して言えるのは、マチ先生に看取ってもらいたい、ということだろう。



神様のカルテ


信州にある病院での話。

主人公の医者は2時間ばかりの仮眠をとっただけでまるまる二日間働きづめのフラフラ状態。

でようやく家へ帰れたんだから、寝りゃいいものを同じアパートの隣人のすすめにのって飲み始めてしまう。

それでまた睡眠時間を擦り減らして、病院から緊急のお呼びがかかり、またまたフラフラで治療にあたる。

そんな状態で治療にあたって大丈夫なのかいな、と思ってしまうが、どうも大丈夫らしい。

慢性的な医師不足。

研修医だろうが専門外だろうが、医者なら緊急医としてOKなのだ。

地域医療の実態をコミカルなタッチで描いている。

主人公の話す古風な言葉遣いが、その誠実さを強調している。

ご自身、信州の医学部を卒業後、信州で医療を行って来たということなので、かなりの部分は実体験にもとづいたものなのだろう。

大学の医局へ行って最先端の医療を身につけて来い、との友人からの忠告。

果たして最先端の医療とは何なのか?
最先端を使えば、生き永らえさせることは出来るだろう、だが、そこに人間としての尊厳が残っているのかどうなのか。

どんな人にも必ず訪れる死。
その時を迎えるにあたって、その人は幸せだった、と言い切れるのかどうか?

まさに最先端医療というものの首根っこにやいばを突き付けたような作品だ。

神様のカルテ  夏川 草介 著



嘆きの言葉


いったいこの国はどこへ向かって走ってしまうのだろう。
新政権発足後1ケ月。
いくらハネムーン期間だとは言え、国の景気というものをどう考えているのだろう。
何も前政権が良かったと言っているのではない。
時の閣内に居たくせに、郵政民営化は実は反対でした、などと抜け抜けという総理総裁はとっととお辞めになれば良いと思っていたし、解散前のドタバタはあまりにも見苦しかった。それに永年政権についればこその各種のしがらみも一度断ち切る意味でも政権交代はあってしかるべきだっただろうと思う。
政権交代はあってしかるべきであったとしても、マニュフェストに関しては大多数の人がまさか実行しないよな、と思っていたのではないだろうか。
今の緊急課題は雇用問題。
現状で失業率5%超。それより何より現時点で失業こそしていないものの実態は失業に近い雇用調整助成金受給者は255万人(10/14日本経済新聞朝刊の数字)。

新政権も雇用対策は何より大事と言うが、何よりの雇用対策は景気回復じゃないのか?
ダム工事の凍結どころか、前政権が景気対策のためにと組んだ二次補正は悉く凍結。景気の牽引役と思われたエコカー減税も家電のエコポイントも凍結の方向性大。悉く凍結。
なんのための凍結かと言えばマニュフェストで謳ったお題目達成の為の財源作り。
そのお題目が子供手当てであり、高速道路無料化であったり、農家の個別補償手当であったり・・。
そもそも子供手当てって一体全体なんなんだ。
目的は景気対策なのか。少子化対策なのか。
景気対策なわけは無いし、少子化対策だったとしたらなんで中学生まで対象なのか。
その政策を聞いた独身の男性女性が即結婚して子供をつくろうって思うのか?
既婚者が子供手当て目的に子づくりに励むか?
今から子づくりして子供が中学に入るまでこんな政策が続くなんて思う人間が居るとでも思っているのか。
まだ前政権が打ち出して現政権で支給凍結となった子育て応援手当の方がマシだと思う人は山ほど居るだろう。
遊興費は惜しまなくとも給食費は払わない連中に一人当たり月々2万6千円だと?
我らの税金返してくれ!と誰しも叫びたくなるじゃないか。
お子様にハイお年玉、と言って親が5千円包んだって、少し大きな子供は言うだろう。5千円、フンッふざけんじゃねーよ!俺のおかげで月々2万6千円もらってるんだろうがって。
日本人のモラル低下どころか現在の家庭崩壊をさらに助長させてしまうのではないかとすら危ぶまれる。
モラトリアムだと?
軌道修正されはしたものの、最終的には国が債務保証するわけだ。
モラトリアムなどと言われれば貸し手はイヤに決まっている。だからって債務保証なんぞした日にゃ、明日にも潰れそうな乱脈経営の会社に喜んでホイホイ貸し倒れてしまうんじゃないのか。
そもそも経営者たるもの借金すれば、そのリスクを被る覚悟をするのは当たり前の話で、だからこそ経営者は血のしょんべんを流すと言われる。
中小企業で資金繰りは楽々です、などと言う会社はそもそも稀なのであって、今返せないから危機だというところはリーマンショックがあろうが無かろうがいずれにしても近い内に厳しい状態になっていただろうから、借金の猶予にせよ、助成金にせよ、ほんのつかの間の延命措置にしか過ぎないケースが大半だろう。
助成金に至っては、これは現政権がもたらしたものではないが、もはやもらわにゃ損々とばかりに支給してもらい、中には新規受注をもらって下手に失敗をして赤を出すぐらいなら、助成金を受けていた方が安全などと考える会社まで出て来る始末で、これはもはや企業活動とは言えない。
我々はこういうもはやモラルがないなどと言うレベルを通り越したものに支払われるために税金を支払っているのだ。
税金返せ!
何度でも叫びたくなるではないか。
高速道路の無償化にせよ、CO2削減90年比25%減にせよ、互いに矛盾しながらの政策も結局最後は国民につけが廻る。
いったい全体この国はどこへ向かって迷走をし続けていくのだろう。